個人プレーとチームプレーのどちらを優先すべきか。悩ましいテーマだが、教材は迷うことなく前者を断罪している。現役の小学校教員で『「特別の教科 道徳」ってなんだ?』の著者の一人、宮澤弘道氏はこう語る。

「戦時中の国民学校の話かと思ってしまいます。人権を侵害していながら、道徳の教材として扱われている典型例です。道徳はかつて『修身』が筆頭科目であったような位置づけになるのではと懸念しています」

 教科化のきっかけとされたのは、11年10月に起きた「大津市中2いじめ自殺事件」だ。

「中央教育審議会の唱える『いじめのない学校』という方針は確かに切実な要求で、保護者の期待度も高い。しかし、道徳が本当にその期待に応える教科になるのか」(都内の小学校教員)

 ほとんどの教員は週に45分間の道徳の授業でいじめがなくなるとは考えていないだろう。北海道教育大や東京学芸大など4大学が15年夏、教育改革について公立学校教員を対象にアンケート調査を実施、5373人から回答を得た。道徳の教科化に「反対」「どちらかといえば反対」と回答したのは小学校約79%、中学校約76%に上った。理由は業務負担の増加と、やはり、子どもの内面を安易に評価することへの疑問だ。

 もちろん、正式な教科になる前から道徳の授業はあった。だが、成績を付ける必要がなく、副読本を使うも使わないも基本的に自由。授業は個々の教員の裁量で行われてきた。元小学校教員で自然科学教育研究所代表の小佐野正樹氏が語る。

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