まず肩こりから。厚生労働省の国民生活基礎調査(2016年)によると、自覚症状で女性の1位、男性の2位に挙がる肩こり。悪化すると腕の可動域が制限され、手が後ろに回らない、高いところのものが取れないなどの症状も出る。

「自覚していない方がほとんどですが、腕って結構重いんです。パソコン作業などでは、その腕を支えるため、肩が上がった状態が続く。肩こりの患者さんをみて気付いたのが、肩甲骨を守る筋肉のうち、肩甲挙筋(けんこうきょきん)や僧帽筋(そうぼうきん)が働きすぎて緊張状態になり、菱形筋(りょうけいきん)や前鋸筋(ぜんきょきん)が働かなくなる、ということでした」(同)

 肩甲挙筋や僧帽筋は肩を上げる、菱形筋や前鋸筋は肩甲骨を内外側から支えている筋肉だ。デスクワークのような姿勢を続けていると、特に菱形筋が弱くなり肩甲骨を持ち上げていられなくなる。その結果、肩甲骨をつり上げる肩甲挙筋や僧帽筋が緊張して硬くなってしまうのだ。関トレを続けることで肩こりの解消だけでなく、再発防止にもなる。首のこりにも有効だ。

 次はひざの痛み。高齢者に多く、歩くことが困難になると、外出を控えるようになり、QOL(生活の質)を大きく下げる。ひざの関節が変形して痛みが生じる変形性ひざ関節症の患者は、全国で2500万人以上いるとされている。

「実は、ひざ関節の痛みは軟骨のすり減りが原因ではない」と笹川さん。その理由をこう説明する。

「軟骨自体には痛みを感じる受容器がありません。だから軟骨がすり減ることが原因になるわけではないんです。実際、変形性ひざ関節症で人工関節を入れる手術をされた方の中に、以前と同じような痛みを訴える方も多い。軟骨を含めて関節を人工のものに取り換えたのに痛みがあるのであれば、軟骨の痛みでは説明がつきません」

 ではなぜ痛むのか。その原因は“ひざ関節を守る筋肉”にあるという。

 ひざは立ったり歩いたりするときに体重を支える重要な関節だ。歩くときや階段の上り下りの際にひざにかかる負荷は体重の2~4倍。長年の負荷によって、ひざ関節を支えている腱(けん)や筋肉に傷が付き、筋力が低下する。しかし、体重は変わらないため、ひざへの負荷はさらにかかることに……。その悪循環がひざの痛みや変形を招く。

「変形性ひざ関節症の患者さんのうち、ひざの内側に痛みを訴える人では、内側ハムストリングスの働きすぎと内転筋群の衰えが、前や外側に痛みを訴える人では、大腿四頭筋の働きすぎと内側ハムストリングスの衰えがみられます。患者さんの多くは関節がうまく動かないので、特徴的な歩き方になる。正しい歩き方に戻すためにも、ひざ関節の関トレが必要です」(同)

 ひざ関節を守る筋肉は、内側ハムストリングスと内転筋群の二つ。内側ハムストリングスは太ももの内側の奥にある筋肉で、ひざを曲げたり、股関節を伸ばしたりするときに使われる。一方、内転筋群は左右の重心移動に必要な筋肉だ。これらの筋肉がバランスよく使われれば、ひざ関節への負担は減る。

 だが、それがうまくいかないと、太ももの前にある大きな筋肉の大腿四頭筋などが代わりに使われてしまう。そのバランスを整え、股関節の筋力を高めるのが関トレだ。ポイントは、内側が痛む人は内転筋群から、前や外側が痛む人は内側ハムストリングスから始めること。症状が改善してきたら、もう一つのトレーニングを加えよう。二つの筋肉を鍛えるのが理想だ。

「関トレは年齢に関係なくこなせるトレーニングですが、シニアの方にはぜひ取り入れてほしい。寝たきりや介護の最大の要因は骨折や転倒、関節の病気といわれています。健康寿命を延ばすには、関節や筋肉の健康を維持することが大事。関節を鍛え、正しい動作ができるようになれば、寝たきりや介護のリスクを下げることが可能です」(同)

(本誌・山内リカ)

週刊朝日 週刊朝日 2018年4月13日号