ところでアスベスト禍は一地域の問題ではない。身近な問題だ。

「私たちも撮りながら問題の根深さを知っていくわけですが。阪神淡路の震災のときも東日本の震災のときも、ニューヨークのビルが倒壊したときにもアスベストのことが言われましたが、いつの間にか忘れられていったんですね」

 アスベストは安価にして耐火性に優れていることから建築資材として規制以前には多用されてきた。2012年に中皮腫で亡くなった作家の藤本義一さんもアスベストが原因と見られている。自宅が兵庫県の西宮市で、1995年の阪神大震災の際に震災遺児向けの施設運営に携わり、飛散した石綿の粉じんを吸い込んだ可能性が高いと考えられている。

 ビル解体などの際、コスト高となるために防護対策をとらない業者もある。

「他人事じゃないんです。中皮腫を発症した建設労働者による労災認定を求める裁判があちこちで起きています。泉南の人たちが裁判で争ったのは、国はそうした危険性を十分に認識しながら経済優先で対策を打たなかった。水俣病もそうですが、その結果被害が拡大したことの責任を誰がとるのかということです」

 国内で石綿の製造・使用が全面的に禁止となったのは2006年。それまでに使用されてきたアスベストをどうするのか。誰もが知らぬ間に吸引するリスクを負っているということだ。(朝山実)

週刊朝日 2018年3月23日号