その一方で、家族を愛し、3度目の妻となったウーナ・オキーフとの間には6人の子が生まれた。かつての美声がよみがえったと評された『クニルソン』には、子どもへの愛情を込めた作品が収録されている。ニルソン原作によるTVアニメの『オブリオの不思議な旅』が後に何度か劇場化され、ニルソンにとって精神的な救いとなったことも本著から知った。

 酒とドラッグにむしばまれていたニルソンは、財務管理を任せていた人物の背任的な行為によって破産宣告を受ける。そのショックから本格的な病人になってしまったという。そこに救いの手を差し伸べたのはリンゴ・スターをはじめとする友人たちだったという友情話も麗しい。

 波乱に満ちたニルソンの足跡を追いながら、当初こそ興奮を覚えながら、やがて心の痛みにかられ、しばしば読み進むのがつらくなる。それでも、本著に登場する曲や貴重なテレビ出演の記録をネットで検索すると、ニルソンの魅力に改めて触れることができる。そんな楽しみを教えてくれたのもうれしい。(音楽評論家・小倉エージ)

●アリン・シップトン著、奥田祐士訳『ハリー・ニルソンの肖像』(国書刊行会)

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小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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