アメリカのシンガー・ソングライター、ハリー・ニルソンの伝記本『ハリー・ニルソンの肖像』(国書刊行会)を見つけたのはいつも出向くCDショップでのことだった。1994年に死去したニルソンの24回目の命日(1月15日)を何日か過ぎた日だったという偶然に驚いた。
原著は2013年、イギリスの音楽評論家によって書かれた。手にとると、本の分厚さと重さに驚いた。冒頭にはニルソンの幼年期からのスナップ集が7ページ。本文が427ページ、巻末のディスコグラフィー、索引、原注なども69ページに及ぶ。
ニルソンは66年のデビュー・アルバム『スポットライト・オン・ニルソン』が不発に終わり、67年に再デビューした『パンディモニアム・シャドウ・ショウ』で注目を集めた。
3オクターヴ半の声域の美声とスタジオ・ワークを駆使した多重録音によるコーラス。メロディーは甘く、ロマンチックで、どこか陰りや切なさを含んでいる。その歌詞はユーモアやウィットに富んでいた。同作ですでにソングライターとしての才能とヴォーカリストとしての力量を発揮していた。
その存在が広く知られるようになったのは映画『真夜中のカーボーイ』(69年)の主題歌で、全米6位のヒットを記録した「うわさの男」からのことだ。この年に発表されたアルバム『ハリー・ニルソンの肖像』も話題を集めた。72年には「ウィザウト・ユー」が4週間にわたって全米チャートの1位にランクされ、ロック・ヴォーカリストとしての評価を得た。
全12章からなる本著の第1章「1941」は、生い立ちにまつわる話だ。ニルソンことハリー・エドワード・ニルソンは、同名の父ハリー・ニルソン・シニアと、ベットという愛称で呼ばれた母のエリザベスとの間に、41年6月15日、ブルックリンで生まれた。
父は太平洋戦争の開戦とともに戦争に駆り出され、ニルソンは母のベットと暮らしていたが、44年に両親は離婚。もっとも、母からは父は戦死したと教えられてきた。