かの岡田有希子さんがアイドル絶頂の最中に自ら命を絶ったのは、私が小学5年生の時でした。前の晩もブラウン管の中でキラキラと歌っていた人が、血まみれになって死ぬ道を選んだ──。その事実は子供だった私に、途方もない恐怖と混乱を与えました。その3年後に中森明菜さんが自殺未遂をした際も、例えば『親が自殺』とか『友達が死にたがっている』を想像するよりも、遥かに強い『居心地の悪さ』を覚えたものです。

 要するにアイドルは『生命力の塊』でなくてはならない。栄華も堕落も拙さも儚さも、そこにとてつもない生命力が漲っているからこそ、私たちを瞬発的に刹那的に魅了できるわけです。今は私も、若くして『永遠』になってしまった彼らに対し、『死に様は最後の生き様』だと尊重できるようになりましたが、やはり現役アイドルが『死』という生々しさを選び、その違和感を世間に添えてしまうのだけは、どうにも慣れません。

 SHINeeの『D×D×D』という曲が好きで、今も聴けば気分が高揚しますが、そこに付随してくる哀しさとは別の新たな違和感。アイドルというのは曲だけでなく存在すべてがメッセージなわけで、だとすれば『生きることをやめてしまった』というメッセージは、やはりどう捉えても『アイドル的』ではないと感じるのです。恐らく最も孤独で、ギリギリのところで生きているが故に輝く。そんな人たちに向かって「死ぬな」と言ってしまう私は、つくづく鬼だと思います。

週刊朝日  2018年1月5-12日合併号

著者プロフィールを見る
ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

ミッツ・マングローブの記事一覧はこちら