「ベジャールはダンス界における天才。私はダンスだけでなく音楽においても彼の作品を通して新たな作曲家を知るなど大きな影響を受けました。ベジャールは舞台芸術家として舞台全体を教えてくれた。彼が起用するダンサーも、ダンサー以前に舞台芸術家。見る人が彼らのダンスに『人間を感じる』のです。それは今でも鮮明に記憶に残っていますし、私のインスピレーションの源となりました」

 結局、監督はダンスではなく映像の道へ。BBLを初めて撮ったのは08年。マドリードの王立劇場に短編を依頼され、それをきっかけに先の長編「ベジャール、そして……」を手掛けることになった。その後もBBLの公演を収録したり短編を撮ったり。今回のドキュメンタリーはBBLと監督自身の「作品として残したいという思いが合致した」と話す。

 バレエ「第九交響曲」は1964年にベジャールが手掛けた代表作の一つ。BBLの芸術監督ジル・ロマンは「『第九交響曲』には我々を前進させる力がある。ベートーベンとモーリス(ベジャール)からの贈り物なんだ」と言う。

 だが、99年のパリ・オペラ座のパリ公演を最後に途絶え、2007年にベジャールが他界してからは再演は不可能とされていた。ところが、作品の誕生から50年を迎えた14年、BBLと縁の深い東京バレエ団と共同で制作することを決定。オーケストラは世界的な指揮者ズービン・メータによる名門イスラエル・フィルハーモニー。バレエファン、音楽ファンにとってこの上なくぜいたくなステージが実現することになった。

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