映画はプロジェクト始動から東京で舞台初日を迎えるまでの日々を追う。

 撮影にあたってアギーレ監督が一番こだわったのは、「すべてのショットが完璧で、美しいものであること」だ。

「『第九』のような類いまれな傑作を映画にするのですから、手抜きのショットがあればそれは作品に対する敬意の欠如です」

 寝そべり身を丸めたダンサーたちが一人ずつ目を覚まし、苦悩しながらも喜びを見いだしていく第1楽章。赤の衣装をまとったダンサーたちが踊りながら「喜び」を伝える第2楽章。甘美な第3楽章では白の衣装に身を包んだ男女がしなやかに踊る。「歓喜の歌」で圧倒的な盛り上がりを見せる第4楽章。合唱団全員が歌い上げる中、80人の肌の色も国籍も異なる男女のダンサーが手をつなぎ、ぐるぐると円を回り続けるフィナーレは圧巻だ。音楽とダンスによる「第九」が見る者を興奮のるつぼへと導く。

「ベジャールはダンサーを素材として考えていました。彫刻家にとっての石と同じです。素材の特性を敏感に感じ、それを生かして作品を作っていました」

 とアギーレ監督が言うように、各楽章を作り上げていくダンサーたちの動きや言葉にも注目だ。

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