と確認してきた。女性は耳が遠く、全く聞こえていなかった。その日、女性が住む地域では同様の出来事が10件発生し、警察署に問い合わせがきていたという。

「電話が次々かかってくるし、いろんな人が出てくるし、頭が混乱した」

 相手に冷静に考えさせる時間を与えない卑劣な手法だ。貴重な生活費が奪われ、何とも悔しい思いだけが残った。

 こうした、高齢者からキャッシュカードをだまし取る被害は急増している。下のグラフを見てほしい。警察庁によると、2017年9月だけでも認知件数は419件、被害額は約5億2千万円に上る。16年1月は25件、約5千万円だったので、この2年弱でひと月当たりの被害額は10倍以上に膨らんでいる。

 警察庁の担当者は、

「警察としては、オレオレ詐欺などこの種の犯罪に関して、金融機関と連携して被害防止の活動をしている。キャッシュカードを受け取る『受け子』、現金をATMから引き出す『出し子』、現場にはこの2役が絶対に来る。この犯人をまず捕まえたい。詐欺の電話がかかってきた人に協力してもらい、『だまされたふり作戦』もしている」

 と、警察としても対策に力を入れているという。

 だが受け子や出し子を張り込んで逮捕しても、詐欺集団のリーダーまでたどり着くのは簡単ではない。

 しかも手口は常に“進化”している。「だまされたふり作戦」を逆手に取るものまである。

 札幌市では9月に、金融機関職員を名乗る男から80代の女性宅に「口座からカネが下ろされた可能性があり、凍結する必要がある」と電話があった。女性は不審に思い、自宅を訪れた男性にカードを当初は渡さなかった。

 ところが、警察官をかたる人物から「また犯人が来るかもしれない。『だまされたふり作戦』に協力してほしい」と電話があった。結局、女性はカードを渡し、暗証番号も伝えてしまった。警察では「だまされたふり作戦で本物のカードや現金を使うことはない」と注意を呼びかけているが、高齢者には届きにくい。

 詐欺に名前を悪用されている全国銀行協会も危機感を持っている。

「協会にこの件で問い合わせてくるのは、高齢者の女性が多い印象です。被害に遭う前に疑問を感じて電話してくる人が大半ですが、実際に現金を引き出された方もいます。以前は『オレオレ詐欺』、最近では現金を渡す形といろんな手口がありますが、今はカード受け取り型になっているのかもしれません」(全銀協の担当者)(本誌・大塚淳史、多田敏男)

週刊朝日  2017年12月1日号より抜粋