辻:日本を絶賛することが息子の喜びなんですよ。日本の漫画も好きですしね。日本でいちばんおいしい回転ずしに行ったときや、富士山に登ったときに動画を撮って、学校でみんなに見せているんです。「日本はこんなに素晴らしいんだよ」って。

林:ああ、なるほど。

辻:でも、このあいだ息子と話していたら衝撃的なことがありました。「日本には島国のアイデンティティーがあるんだよ」と話したら、彼はポツンと「僕には国境がないんだよ。陸続きの国で生まれたから、隣の国で何かをするなんてことは、あたりまえ。隣町と同じだよ。国境を越えて何かをスタートするのに、いちいちかまえなくていいのに」と言ったんです。

林:素晴らしいじゃないですか。

辻:僕は今、「デザイン・ストーリーズ」という海外で暮らす日本人を応援するウェブサイトを運営しています。ふつう日本人はかなりの覚悟をもって海外に出るでしょう。でも息子はもう外国に出ちゃってますから、どこかの国で一から頑張る感覚がない。これがもしかしたら日本にはない教育環境なのかなと思う。

女性ばかりがたたかれる日本の不倫…辻仁成「あれは何だろう?」に続く

(構成 本誌・直木詩帆)

週刊朝日  2017年11月24日号より抜粋