日本は1990年代初頭まで断トツの世界最強だったが、その後の世界タイトルは中韓が独占し、井山は国内で勝ちまくっても常に「世界」が頭から離れなかった。盤上の着手が超攻撃的なのはそれゆえだ。優勢でも安全よりリスクを取る。「踏み込まなければ世界に勝てない」。その延長線上に七冠復活があった。

 世界タイトルの獲得は持ち時間の短い早碁ではあるが、持ち時間の長い本格棋戦では手にしていない。本人は世界参戦を渇望するが、国内タイトルを取れば取るほど世界戦との日程が重なり、機会は減っていた。

 昨年3月、思いあまって国内主催各社を回り、世界戦との日程調整を直訴。今秋の名人戦の最中に三たび中国と韓国に出向いた。「殺人的なスケジュール」(日本棋院)になったが「世界戦に出られるワクワク感が、国内でもいい結果をもたらした」と言う。

 名人戦直後、ボクシングミドル級の村田諒太(31)の世界戦をテレビで見た。「さらに上をめざす」と宣言する新チャンピオンに強く共感した。「強い相手とやりたいのは、勝負師として当然でしょう」(朝日新聞文化くらし報道部・大出公二)

週刊朝日 2017年11月10日号