そもそも新井さんが小屋暮らしを始めたのは、モノの少ない生活に憧れたためだ。県内の実家に住んでいたころ、「自分の部屋なのに、自分の動けるスペースが狭い」と思ったのがきっかけだった。それから洋服や靴、雑貨を捨てる「断捨離」を始めた。引っ越し時の荷物は、軽トラ1台分にも満たなかった。現在も、冷蔵庫、テレビ、エアコンは持たず、代わりに冷たい飲み物はコンビニへ、テレビが見たくなったらラーメン店へ、猛暑日は図書館でやり過ごす。いわば徹底的な「断捨離」の結果が、「東電フリー」の小屋住まいだったわけだ。

 小屋の維持費は、固定資産税が年間7千円。月の生活費は5万円程度だ。

「新居を建てたら、のんびり子育てして過ごしたいですね。本来、定年してからやることを、やってしまいましたから」

「而立」の年を前に、早くもセミリタイアにシフトしつつある新井さんであった。

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 日本の電力需要は戦後、ほぼ一貫して増え続けてきたが、節電意識が高まった東日本大震災以降はその伸びは鈍化傾向にあるという。震災以降、東京電力管内では電力使用量が約600万キロワット減少した。

「電力会社と契約しない」「契約を解除する」には、相当な覚悟が必要だ。しかしソーラー発電の普及により、電力会社に頼らずとも照明や情報端末の充電など、最低限の電力を確保することが可能になった。

 戸建て住宅の太陽光パネル導入は16年度に200万件を超えた。背景には、家庭用の太陽光発電システムの設置費用の低下がある。1キロワットあたりの設置費用は11年に50万円前後だったのが現在では30万円程度となり、4割程度下がっている。

「東電フリー」の暮らしは、意外と身近なところにあるのかもしれない。(ライター・中山茂大)

週刊朝日 2017年11月3日号