「大河の一滴」は、かつての恋愛模様や、その後の人生を振り返った作品。歌詞にあるボブ・ディランの代表作のタイトルが男の心情を映し出す。青山学院大学の学生時代に過ごした渋谷の町の急速な変貌に触れ、思い出の場所が消えていく現実と不安をにじませる。

「愛のプレリュード」。桑田曰く「内向きで保守的になると必ずやる」という1960年代風のビート・ポップス。友達以上恋人未満という2人の関係から、一歩踏み出せずに終わったプラトニックな恋の物語。

「あなたの夢を見ています」も、〝気持ちはいつも 口説いて 抱いて イカして ランデブー〟だが、恋愛を成就できずにふられ、ひとり寝をかこつ男の話だ。

「愛のささくれ~Nobody loves me」では、前ボタンが張り裂けそうなぐらい欲望を抱えながら、一向にもてない男の惨めな物語。〝背伸びをしてたんだな〟という男のつぶやきは、かつての桑田自身のつぶやきに違いない。

 テレビ番組で耳にする「百万本の赤い薔薇」。原由子に丸投げしたというストリングスの編曲は70年代のディスコ・ナンバー風で、バリー・ホワイトの「愛のテーマ」が思い浮かぶ。歌詞にある〝「愛と平和」なんてのは 遠い昔の夢か 強くあれと言う前に 己の弱さを知れ〟からは、ヘイト・スピーチやモンスター・クレイマーの存在が想起される。

 さらに強烈なメッセージを放つのが「サイテーのワル」。SNSでの炎上、個人情報まで暴かれ、そのまま放置されるネットの実態、スキャンダルを書きたてる週刊誌、それを垂れ流すテレビのワイドショーなど、メディアへの批判を込めた作品だ。桑田自身、そうした騒動にまきこまれたこともある。〝他人(ひと)の不幸は甘い蜜〟とばかり、ネットでの情報やスキャンダルを享受する人々の存在も指摘。自身もそうした人間であることを否定しない。

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