左の爪の写真は黒い線が入っており、右は縦線がくっきり出ている(東京医療専門学校提供)
左の爪の写真は黒い線が入っており、右は縦線がくっきり出ている(東京医療専門学校提供)

 爪を、見てみよう。縦に線は入っていないだろうか。あれ? 前はこんなに筋はなかったのに。いつのまに縦線が……。それは「老化」の証拠。その線が黒ければ注意が必要だ。

 爪には体の状態が反映される。爪からどう健康をチェックするのか。それが知りたくて、慶応義塾大学病院皮膚科を訪れた。ここでは、毎週水曜午後を「爪外来」の診療日とし、爪のトラブル全般に対応している。深爪、巻き爪、陥入爪、爪白癬(つめはくせん)から、爪に生じる皮膚がんまで、難治性の爪の病気を幅広く診察。爪から、どんな病気の予兆がわかるのか。

 専任講師の齋藤昌孝氏は「成人になってから出た黒い縦線(色素線条)は、注意が必要です。最初は細くても、放っておくとだんだん太くなることがある。爪のメラノーマ(皮膚がんの一つ)の可能性があります。悪性度が高く、ごく初期でないと、指の切断ですまなくなる」と話す。

 横線は問題ないが、縦線には注意が必要。色が不均一なこともある。気づいたら迷わず受診を勧めるという。

 爪にできるがんは、どのように出てくるのだろう。

「多くの場合は爪母(そうぼ)から出ます。三日月状の白い部分の奥に爪を作っている場所があり、そこから、がんが出ます。それが爪の線として表面化し、徐々に広がります。症状は人によって違いますが、黒い線には要注意」(齋藤氏)

 いつの間にか黒い塊がある、線が見えたなどというときは、「血豆かな」と放っておかないほうがよい。がんになると進行が速いのが、メラノーマの特徴だ。

 診察室を訪れた40代の女性患者で、初期のメラノーマの人がいた。爪を全部とって植皮するなどの治療を施し、指を切断せずにすんだという。「転移しておらず今のところ順調ですが、初期の方でも半年~年1回の経過観察が必要です。メラノーマは、がんの中でも非常に悪性度が高いからです」と齋藤氏。

 最初は目に見えないほどの細い線だが、いつしか太くなって、がんとして進行する。患者に「いつごろから線が出たのか」と聞いても、「覚えていない。そういえば色がついていたかな。3~4年前かな」といった反応が多いという。

 とはいえ、縦線に過敏になる必要もない。すべての指の爪に細い線があるときはたいてい、がんとは無関係だ。根元が軽い炎症を起こしたときや、抗がん剤を投与している場合も縦線が出るという。

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