「死なない……?」

 内田さんは、「たぶん、死ぬようながんじゃないと思う」と答えるのが、精いっぱいだった。

 その後、病院での詳しい検査で、専門医が正式にがんと診断。検査では肛門から2センチの場所に腫瘍ができているため、組織採取の道具が付いたカメラが奥まで入らなかった。便が出にくかったのは腫瘍も原因の一つだったようだ。

 内田さんにとってがんの「正式な告知」はある意味、想定内。だがこのとき、内田さんが衝撃を受けたのは主治医の次の言葉だ。

「今手術すれば、人工肛門は免れないでしょう」

 がん宣告以上にショックだった。肛門と腫瘍の位置があまりに近いのが理由だった。

「まさか、肛門を失う可能性があるなんて……。人工肛門についての知識もなかったし、普通の生活が送れなくなるんじゃないかと、最初はとにかく不安でいっぱいでした」

 人工肛門とは、便を排せつするために腹部に造設する消化管排せつ口のこと。自分の腸を直接おなかの外に出し、便の出口を設ける仕組みだ。人工肛門の先に専用のフィルターと袋を取り付け、排せつ物が出るたびに、袋の中を掃除する。

「人工肛門にならなくて済むかもしれないから、先に抗がん剤を入れましょう」

 主治医は、手術より先に抗がん剤の化学療法を始めることを提案した。薬によって腫瘍が縮むことにより、肛門からの距離を少しでも稼ぐことが目的だ。化学療法は不安も大きかったが、主治医からは「大腸がんの場合は、つわりよりつらくない」と言われた。

 化学療法は、隔週で6回(3カ月間)が1クール。鎖骨下に埋め込んだポートから、太い血管に薬を送る。1回につき、2日間かけて薬を入れ続ける。ポートを埋める手術をした初回を除き、2回目からは入院は不要。軽い吐き気が続いたり、指先など末端が冷たいものに触れるとしびれるなどの副作用は表れたが、髪は全く抜けず、気分転換に金髪にしたことで明るい印象になり、「前よりむしろ元気に見られた」くらいだった。

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