「障害年金」という制度をご存じですか。病気やケガで働けなくなった時に、生活を支えてくれる公的年金のことである。万が一に備える“国の保険”だが、知らないまま、「もらえるのに、もらっていない人」が大勢いるという。一体なぜ、そうなるのか──。
都内に住む男性(57)は、14年前にオートバイに乗っていて事故に遭い、脳に障害を負った。身の回りのことは何とかできるが、聞いたことをすぐ忘れてしまったり、予定を覚えられなかったりする。病名は高次脳機能障害。奥さんによると、
「障害で性格も変わってしまいました。事故前は温厚な人だったのに、今はささいなことですぐ怒ります」
仕事はしていない、というより「できない」。時々、発作が出ては入退院を繰り返している。
そんな苦しい状況だったが、9月から男性に障害年金が出るようになる。月約13万円。奥さんのパートが頼りだったから、生活がぐんと楽になる。
「障害年金のことなど何も知らなかったのですが、数年前、夫が入院した時、たまたま病院のケースワーカーさんに家計の相談をしていたら、『障害年金っていうのがあるよ』と教えてくれたんです」(奥さん)
ケースワーカーに障害年金を専門にしている社会保険労務士を紹介してもらい、請求にこぎつけた。担当した社労士の山下律子さんが言う。
「障害年金をもらえる状態であることが今回、認定されました。また、ずっと以前から同じ状態であったことも認定されました。その場合は、5年前までさかのぼって年金が受け取れます。男性には、合計で約1千万円が支給されることになります」
山下さんによると、こんな大金が支給されるケースは珍しいというが、障害年金がもらえるのにもらっていない、いわゆる「請求漏れ」の人は大勢いるはずだという。
年金は年をとってからもらうものと思いがちだが、公的年金には、万が一のリスクに備えた、まさに「保険」の機能を持った制度がある。障害年金はその一つで、病気やケガで心身に障害が残って、働けなくなったり日常生活が送りにくくなったりした場合に受給できる。
原因となる病気やケガで初めて病院にかかった時に年金制度に加入していることや、保険料を基準期間以上納めていること、障害の状態が一定の基準以上であることなどが条件だ。