厚労省が2011~13年度に80カ所の除去工事を調べたところ、2割弱の13カ所で周辺に飛散させていた。環境省が10~16年度に53カ所を調べたところ、約半数の26カ所で漏出が判明した。

 堺市が発注した16年の工事で、石綿断熱材がある煙突を対策をしないまま解体し、周辺に飛散させた事例もあった。監督・指導する立場の自治体ですら、十分に対応できていない。

 NPO法人「東京労働安全衛生センター」の外山尚紀氏は、

「欧米では建物所有者が石綿管理責任者を置いていますが、日本では義務づけられていません。石綿の調査や分析、管理の法的な資格要件もありません。除去工事が適正かどうかを十分チェックする仕組みはなく、違法工事をしても罰せられることはまずありません」

 と問題点を挙げる。

 吹き付け石綿が使われた建物は2028年に解体ピークを迎えるとされる。このままでは、危険な建物に居るだけではなく、建物の周辺も巻き込んで被害が広がる可能性がある。

 死を招く石綿の恐ろしさが広く知られるようになったのは、「クボタ・ショック」が大きかった。大手機械メーカー・クボタの旧神崎工場(兵庫県尼崎市)周辺で、多数の住民被害が発覚したのだ。クボタ・ショックから12年になるのに合わせ、患者団体などが6月24日に、尼崎市で被害者救済を訴える集会を開いた。尼崎労働者安全衛生センターの飯田浩事務局長は語る。

「クボタの周辺に住んでいた方の被害は、すでに亡くなった方が309人、現在療養中の方が16人で合計325人。クボタに毎日弁当を運んでいた人も被害に遭っている。この1年で新たにクボタに救済金請求の書類を出したのは13件あり、いまだに被害は増え続けています」

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