国土交通省のアスベスト対策部会で、「中皮腫・じん肺・アスベストセンター」の所長の名取雄司医師が5月に発言している。

「石綿とは関係のない金融とか食品製造といった(業種の)100人を超える方々が石綿被害に遭われ、労災認定を受けている。しかも毎年8人前後増えています」

 根拠は厚生労働省が毎年公表している「石綿ばく露作業による労災認定等事業場」という資料。労災認定された事業所を一覧表にしたもので、理由の一つに「吹き付け石綿のある部屋・建物・倉庫等での作業」がある。単純に集計すると、認定事例は13年度までで125件に上る。金融機関やデパート、スーパーや食品会社など、様々な業種の人が認定されている。名取医師がほかの原因が考えられる事例を除くなど精査したところ、少なくとも105人は建物に吹き付けられた石綿による被害だという。

「被害ははっきりデータに表れている。吹き付け石綿が多く使われた1956~89年に建てられた鉄骨や鉄筋のビルで働いていた方は、リスクがあると思ったほうがいい」(名取医師)

 学校でも石綿を吸い込む恐れがある。中皮腫などを発症し、労災や公務災害として認められた教員は10人弱いる。さらに「石綿健康被害救済法」に基づく認定を受けている教員は、2015年度までの累計で178人に及ぶ。

「学校には吹き付け石綿が多く、中皮腫の男女比率が同程度なので、建物被害の可能性が高い。労災認定を受けた被害者はごく一部。学校のほかにも公営住宅など様々な建物で被害が広がっている。環境省は救済法に関するデータを持っているのだから、追跡調査して被害実態を明らかにすべきです」(名取医師)

 労災の対象にならない自営業者や一般の住民らも、被害を受けている。

次のページ