「今度の実験では従来のしきたりを破って、夜の服以外は特に『男もの』とか『女もの』を一切やめてしまいました。つまり自分のボディに合いさえすれば誰が何を着ても、履いてもいい無性(モノ・セックス)なのです。」

 花を胸に差した時、一層男らしくなったり女らしくなるかは、見る側の自由。そうしたモノ・セックスな感覚を服装デザインに置き換えたのだと、長沢は記している。

 ショーで服のデザインを担当したセツ・モードセミナーファッション科講師の浅賀政男さんは、当時を振り返る。

「1970年に再演した際、長沢さんはショーの服のままモデルをワシントン靴屋から松坂屋まで歩かせた。すると、おまわりさんがすっ飛んできて、責任者の長沢先生が連れて行かれてしまったんです。それほど、インパクトのあるショーだったんです」

 このときの衣装も現存するものは、ショーに登場。モノ・セックスな演出を楽しませてくれた。

 会場にはセツ・モードセミナーの卒業生や長沢のファンが詰めかけた。今年3月の閉校に伴い、最後の卒業生となった小野寺隆さん(44)は、長沢のモノ・セックス観にこう共感を示す。

「私たちは小さい頃から、『赤=女性の色』といった風に、決められた男女の価値観を教え込まれます。しかし、学童職員として子供に関わっていると、たとえば子どもが好きになる色に男女の区別はないと分ります。男女を超えた自由な価値観という視点はとても大切だと思います」

 セツ・モードセミナーは、60年間で1万人を越える卒業生を排出した。ファッション・イラスト界を長きに渡り牽引してきた巨匠の教えは、時を越えてもなお色あせない。

(永井貴子)

※週刊朝日オンライン限定記事