作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。北原氏が、 準強姦疑惑が報じられているジャーナリストの山口敬之氏に潜む問題を語る。

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 3年前のちょうど今頃の季節、新宿・歌舞伎町の路上で、女性ら十数人が昏睡状態に陥った「事件」があった。大学のテニスサークルの飲み会で、女性は新入生だったようだ。歌舞伎町のど真ん中、女性たちは全く動く気配がなく、深い眠りについたまま乱暴にアスファルトの上に転がされていた。飲み物に何かを盛られたのではないかと疑うしかない状況だったが、警察は事件性はないと早々に発表し、また「被害者」が名乗り出ることもなかった。あの晩、私たちが「目撃」したものは、いったい何だったのだろう。

 元TBS社員の山口敬之氏が、意識を奪った状態で女性を強姦したと週刊誌が報じた時、3年前のあの光景を思い出した。彼には逮捕状が出ていながら、直前で取りやめになったそうで、書類送検されたが結局不起訴になった。先日、被害を受けた女性が記者会見を開き、不起訴を不服として検察審査会に申し立てをした。

 報道によれば彼女は普段、お酒に強いという。それが数杯のアルコールで意識を失った。自力で歩けない女性を山口氏がひきずるようにしていたのを何人かが目撃しているという。そういう状態の人を病院に連れていかず、ホテルに連れ込み、避妊せずに行為に及んだことは山口氏も認めている。

 女性の記者会見後、女が集まれば必ずこの話になる。驚いたのは、「男性とお酒を飲む時は、グラスからは目を離さないようにしてます」などと20代の女性たちが、当たり前のように話してくれたことだ。薬を盛らないまでも、酒を飲ませて女性をつぶすことを目的にする男性も少なくないというのは、女たちの一致した感想だった。女性の意識を薬や酒で奪い性交に至るまでの過程をゲームのように楽しむ感覚が決して特殊でないリアルを、女たちは生きている。どんな地獄だ。

 
 そもそも山口氏がTBSを辞めたのは、ベトナム戦争時に韓国軍に「慰安所」があったことを週刊誌で報じたのがきっかけだと、本人がメディアで語っていた。それを読み、なるほどね、と妙に納得した。僕(日本)だけが悪いわけじゃない! 韓国だってやってた!という幼稚さと、「慰安婦」問題を性暴力問題として理解できない剥き出しの性差別は、意識のない女性を部屋に引きずるように連れていける暴力的な感性と、つながっている。

 ちなみに韓国軍のベトナム戦争時の性暴力は、彼が「発見」するまでもなく、韓国の市民たちの手によって問題化されていることは、山口氏はご存知だろうか。

 最近の山口氏のフェイスブックは薔薇の写真ばかり公開されている(それまではラーメンとか蕎麦など食べたものが中心だったのに)。週刊誌の報道あたりから、「激しい雨に打たれてこうべを垂れていたバラが、嵐が過ぎたらまた上を向いて咲いていました」などと、自分を薔薇に例えるようなことを書いていた。薔薇を愛でる感性と、自分を薔薇に例える感性と、女を引きずる感性は同居する。安倍さんを支える「勢力」の闇は想像以上に深そうだ。

週刊朝日 2017年6月16日号

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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