箱根駅伝の激走は人々の記憶にずっと残るだろう (c)朝日新聞社
箱根駅伝の激走は人々の記憶にずっと残るだろう (c)朝日新聞社

 箱根駅伝で「山の神」の異名をとった伝説のランナー柏原竜二(27)が現役を引退した。所属する富士通の陸上競技部が発表した。今後は同社の一般業務に就く。

 早すぎる引退に世間は驚き、ネットには惜しむ書き込みがあふれた。だが柏原は「そんな衝撃なのか!!?」「当の本人はけろっとしてるのでビックリです」とツイートし、困惑気味の様子。

 柏原は東洋大在学中の2009~12年、箱根駅伝の「山登りの5区」で4年連続区間賞を獲得。当時ライバルだった早稲田大を率いた住友電気工業陸上競技部の渡辺康幸監督(43)は、4年間を合計すると、柏原に20分以上ひっくり返されたと振り返る。「彼がいなかったら早稲田はあと2回は総合優勝できた。そのくらい、彼ひとりにやられました」

 卒業後、五輪を目指す道を選び、ニューイヤー駅伝などに挑戦したものの、低迷。けがにも悩まされた。早稲田大在学時に5区を走った経験があるプロランニングコーチの金哲彦さん(53)は「ネームバリューが大きすぎて、プレッシャーを抱えていたのでは」と分析する。柏原はブログで「学生時代は人と接するのが怖くて部屋に籠(こも)って悩んだ時もありました」。ツイッターには「家族に取材に行くのだけはやめて」と投稿。注目度の高さゆえの苦悩をにじませた。

 金さんは、箱根駅伝と日本の男子陸上界の関係を象徴する、ある出来事を振り返る。昨年、マラソン転向を期待され、青山学院大卒業後に中国電力へ進んだ出岐雄大(26)が25歳の若さで引退。「箱根駅伝以上の目標が見つけられなかった」と話し、関係者を驚かせた。箱根駅伝で燃え尽き、実業団に進んでも、より強い選手と競うことになり、思うような成績を残せないこともしばしばある。「かつての注目度と実力の乖離(かいり)に向き合いながら、厳しいプロの練習をしなくてはならない。箱根駅伝出身でモチベーション維持に苦しむ選手は多い」(金さん)

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