院長が“お山の大将”だから…いまだ続く「ドクハラ」の実態

2016/11/25 07:00

 医療問題に詳しい早稲田大学大学院法務研究科の和田仁孝教授は、医師の置かれている環境にも問題があるのではと考察する。

「言葉の捉え方については、患者と医師それぞれの性格なども関わってきますが、日本はOECD(経済協力開発機構)諸国の中で、1千人当たりの病床数が平均の約2.2倍、1人の医師当たりの外来患者はドイツなどより数倍多い。医師が患者の声にじっくり耳を傾けている時間がないのです。そういった環境の中で、医師は患者に説明することを求められるので、どうしても説明不足になったり、口調がきつくなったりしがちです」

 それが患者とのコミュニケーションギャップや暴言を生む要因になっていると見る。

 こうしたトラブルについては、各自治体の保健所などにある「医療安全支援センター」で、保健師、看護師の資格を持ったスタッフが相談を受け付けている。東京都の「患者の声相談窓口」では、毎年、相談実績をホームページ上で公表している。15年度は「コミュニケーションに関する相談」は469件、「コミュニケーションに関する苦情」は1687件。特に後者は、苦情全体の35.1%と最も高かった。

 東京都の担当者(福祉保健局医療政策部医療安全課長代理)は、こう説明する。

「医師や医療関係者とうまくコミュニケーションがとれるように、患者さんには助言や説明をします。また、患者さんの意向があれば、医療機関へ連絡することもあります。ただ、私たちは病院に対して患者さんの要望を伝えることはできても、命令する権限は持っていません。当事者の話し合いによって解決していただくのが基本です」

 そもそも医師が心ない言葉で患者を傷つけたり、高圧的な態度で患者に接したりするドクターハラスメントは00年ごろから問題視されており、裁判で争われたケースもある。

 医師と患者のコミュニケーションギャップについて、前出の山口理事長は次のように説明する。

「医師の暴言に関する相談は、患者さんの意識の高まりとともに、90年代半ばから増えてきて、90年代後半がピークでした。医学部の教育でも、積極的に取り入れられるようになったこともあり、00年代半ばから医師の暴言に関する患者さんからの相談自体は減ってはきています」

 前出の和田教授はその理由をこう述べる。

「現在の医師は以前のように医学的な対応だけでなく、人間的な対応も求められていて、両方できるのが当たり前になってきています」

週刊朝日 2016年12月2日号より抜粋

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