「製造業が盛んで、外部に積極的に打ち出さなくても、それなりに豊かにやってこられたことが大きいのです。大学進学も就職先も地元志向が強い。上京したがる子どもを地元に引き留めるため、車を買うことを条件に出す親はどこにでもいそうですが、家を買ってやるから残りなさいというのが名古屋の感覚なのです。ケチと言われるのは実は誤解で、コスパのいいお得感のある『お値打ち』価格を重視し、使うときにはドンとカネを出す」

 最大の繁華街・栄地区の防災訓練に参加していた、日本語学校に通う20代女性の中国人留学生3人に声をかけた。日本人が「行きたくない」との烙印(らくいん)を押した街を、どう感じているのだろうか。

「東京や大阪、にぎやかな街はだいたい好きではありません。ナゴヤは静かだけど何でもそろって便利」

 なるほど。「大いなるイナカ」で「住みやすい」ということか。彼女らに「行きたくない街ナンバーワン」になったことを伝えると、ひとりが怒気をはらんだ口調でこう訴えた。

「ナゴヤ、どうして行きたくないか! 1カ月仕事休んで来て、ひつまぶし食べて、みそ煮込み食べて、それから決めてほしい」

 名古屋人の悔しい胸の内を代弁してくれているかのようだ。“失地回復”の切り札は、やはり「名古屋メシ」と言うのは、前出・地元ライターの大竹氏だ。

 朝は喫茶店のモーニングサービスに始まり、昼はみそかつにきしめん、台湾ラーメン。夜はひつまぶしや名古屋コーチンで接待と、バリエーションは幅広い。

「郷土料理がこれほど豊富なのは名古屋と沖縄だけと言います。名古屋メシの中心的存在は豆みそ(赤みそ)ですが、日本食の特徴であるうまみ成分が強い。みその中で唯一、煮込んでも風味が損なわれない。だから、みそ煮込みやみそかつなどの料理が可能なのです。食をはじめ身近な文化的背景を見直し、自信を持つべきです」(大竹氏)

 卑屈になったり劣等感を抱いたりする必要はないのだ。独自の文化を発信する名古屋は、東京と大阪の間で燦然(さんぜん)と輝いている。

 ほんでもよー、NHKの「ブラタモリ」(※1)、全然来やせんな!

※1 タモリ出演の街歩き番組。放送開始からすでに50回を超えるが……。

週刊朝日  2016年11月11日号