「恋人募集中、と書いておいてくれませんか」。夫・歌手の早川義夫さんは子供のような笑い顔。隣に立つ、妻・静代さんも「お願いします」と頭を下げる。ふたりが結婚したのは、ともに20歳。和光大学のクラスメートで、夫は伝説のロックバンド「ジャックス」のリーダーだった。
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夫:人文学部の人間関係学科というクラスで一緒になったのが最初で、自己紹介をしていった授業で「赤色のワンピース」が目立っていた。帰り道一緒になって「いつもどこで遊んでいるの?」と声をかけたら、「遊んでない」。喫茶店にも入ったことがないと言うんだ。
妻:よく覚えていない。ただ、ずっと女子校で、男の子としゃべるということをしてこなかったのね。
夫:それからしばらく一緒に帰ったりしていたら、しいこが「付き合っているみたいに思われるのは嫌だから」と言うので、「わかった」とちゃんと引き下がった。「しいこ」というのは名前が静代で、当時からそう呼んできた。
――夫は、いつも濃い黒眼鏡。髪も背中まで伸ばしていた。妻が初めて好きになった異性が夫だった。
妻:髪を切ったのは結婚して子供が生まれたときよね。
夫:あれはグループを解散したのもあったのかなぁ。サングラスも薄い色のものに変え。いま思うと、先生に対してあれは失礼だったなぁと思いますよね。結局、2年で中退するんだけど。
妻:わたしが覚えているのは「デートしましょう」と言われ、新宿の「風月堂」へきれいな格好をして行ったら、膝丈の短パンにお母さんの庭げたを履いてきた。
夫:当時の風月堂に来るお客はみんなヘンな格好をしていたから。
妻:そのヘンな感じが、好みに合ったのかも。恋心、というのともちょっと違うんですけどね。
夫:その後だったかな、新宿の小さなホールでライブをやるからって誘ったら来てくれて。「ジャックス」というバンドの最初の単独コンサートで、50人くらいお客さんが入った。「どうだった?」と聞いたら、「(ギターを弾く)膝小僧がカワイかった」と言うんだ。
妻:歌はみんな同じに聴こえて、膝小僧をずっと見ていた。色っぽかったのよね。
――結婚を決めたのは、「どういう人と結婚するの?」という夫の問いかけに、妻が「最初にプロポーズしてくれた人」と答えたのがきっかけだ。