妻:でも、主人の一番上のお兄さんが、結納に来られるというので、うちの親があわてて。結納金の10万円で結婚指輪を買いました。

夫:親と一緒に住むのは嫌だなと言ったら、おやじが風呂ナシのボロっちい家を買ってくれて、ペンキとか自分で塗って住んだの。借地権付きで200万円だったかな。中退後は、家の商売を手伝ったりしたけど、おやじと大喧嘩して……。よく父親は耐えていたよね。

――書店で2年ほど働いた後、夫は25歳で20坪の「早川書店」を開業した。

妻:お義父さんに運転資金を借りたりしたけど、3年半で返した。よく働いていましたから。

夫:最初、取次から請求書が来たら全額払うものだと思っていたけど、ほかの本屋さんに聞いたら、そうじゃない。そういうのも知らなかったし、頼んだ本が送られてこないから、いつも怒っていたんだよね。

妻:もう寝言でも怒っていたわよね。

夫:本屋は「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」が言えたらやっていけると思っていたら、そんなに甘くはなかった。

妻:でも、22年もやってこられたのは「商人の血」が流れていたからじゃない。ほとんどレジに立たないのに、「今日いくら売れたと思う?」と聞くと当たる。

夫:結局ふたりでやれる範囲でやって。最後は休みもなくて疲れたんだよね。

妻:楽しかったのは、小さい子に付録の余りをあげると喜ばれた。

夫:しいこは、お客さんと気軽にしゃべるんだけど、僕はできなくて。

妻:でも、やめるって決めたときに、近所の人に「すごくうれしそうな顔している」って言われたのよね。

夫:夜は10時までだけど、閉めてからも返品作業とかやって。このあいだ「もう一回本屋やろうか」と言ったら、「冗談でしょう」って返された(笑)。

週刊朝日  2016年10月28日号より抜粋