──彼ひとりの落ち度ではなかったのに、彼が責任を負うようにテレビで謝罪しなくてはいけなかったことについてはどう思いましたか?

「シェークスピア劇のようだと思ったね。これは例えば(レッドフォード主演の)『大統領の陰謀』(1976年)と比べると明らかだ。あの映画の中で、ウッドワード(レッドフォード)とバーンスタイン(ダスティン・ホフマン)はウォーターゲート事件を追いかけていて、権力はそれをつぶそうとしていた。それでも、新聞社も編集長も彼らの味方だった。だけどダンとメアリー(プロデューサー)には誰も味方してくれなかった。なぜなら彼らの上司は、権威のほうに従っていたからね。それが大きな違いだよ。映画がそれを語っていると思う」

──インターネットの普及でジャーナリズムの形が変化したと思いますか?

「僕がそれについて語れる立場にあるのかわからないけど、でもジャーナリズムは変わってしまったと思うよ。昔に比べて企業や政治が介入するようになったからね。真実を語ろうとしているときに、政治が関わってしまったら絶対に問題になる。それに失望するとともに興味深く見ているんだ」

──ダンもあなたも仕事を続けていますが、引退したいと思ったりしませんか?

「(笑)僕が引退するとは思えないなあ。活動し続けているのが楽しいからね。すごく好奇心が強くて新しいことを探求するのが好きなんだ。それにやめたら、何かが乾いてしまうような気がする。ダンも同じなんじゃないかな。やる気に満ちた人だし、とにかく真実を追求したくてやめられないんだと思う。ああいうことがあった後でもカムバックした意欲といったらすごいよね。そこで隠居せずに戻ったという事実が、彼がどれほど強い人物だったのかを物語っていると思う。彼がどれほど真実を追求することに執着しているのかということをね」

──やり続けることが若さの秘訣ですか?

「そのおかげで若くあり続けられるのかは疑問だね。努力すればするだけ老ける気もするからね(笑)。だけど、好奇心を持ち続けることは価値がある。そのおかげで僕は前進し続けていると思うから。とりわけ、映画という分野は、未知の世界が果てしなくある。語りたい物語は尽きない。だからすごくエキサイティングなんだよ」(ライター・中村明美)

週刊朝日 2016年8月12日号より抜粋