なお、頭部外傷でなぜ脳に被膜ができるのかは明らかになっていない。ただし、慢性硬膜下血腫は子どもにはめったに起こらず、高齢者やアルコール多飲者に多いことから、脳の萎縮と関連していると推察されている。

「豆腐が容器いっぱいに入っている場合は容器を振っても豆腐はほとんど動きません。しかし豆腐が小さいと容器の中で位置がずれたり、豆腐がくずれたりします。高齢者やお酒を多く飲む人は、脳が萎縮していることが多く、頭蓋骨と脳の間にすき間ができてしまうため、外傷によって脳が動きやすい。これが慢性硬膜下血腫の発症のきっかけになっていると考えられます」(同)

 慢性硬膜下血腫の症状で気づきやすいのが「片麻痺」だ。脳の右側に血腫ができると右の脳が圧迫され、左の手や足が動きにくくなる。脳の左側に血腫ができれば右手足が麻痺する。

「一方で気がつきにくいのは両側性といって、脳の左右に血腫ができている場合です。このような場合、片麻痺はほとんど見られず、もの忘れや意欲の低下など意識の状態に変化が起こりやすくなります。こうした症状は認知症に似ていますが、CTやMRI(磁気共鳴断層撮影)などの画像検査により、きちんと鑑別することができます」(同)

 慢性硬膜下血腫は「穿頭(せんとう)血腫ドレナージ術」という外科治療が一般的だ。頭部に局所麻酔をして頭蓋骨に小さい孔(あな)を開ける。そして被膜の中にチューブの先を入れ、もう一方を体外に出しておく。するとたまっていた血液が少しずつ外に出てきて血腫が小さくなる。完全に血が排出されたら治療は終了だ。

「手術時間は10分ほどです。数時間後には症状が回復し、麻痺がとれます。言語に障害があった方は普通に話せるようになります。劇的な変化にいちばん驚くのは患者さん本人ですね」(同)

週刊朝日  2016年7月1日号より抜粋