40歳を迎えたばかりの公務員Bさんは3年ほど前、上司から「最近、仕事のミスが増えたね」と言われた。常に頭にもやがかかったような感じがあり、大事な打ち合わせを忘れる、書類作成の期限を忘れる、電話のことづてを忘れる、といったミスが相次いだ。

「もしかしたら、若年性認知症かも……」

 うすうす感じていたところに、上司からの指摘。周りの勧めもあり、認知症を診る医院を受診した。後日、医師から告げられたのは、「若年性認知症の疑いあり」。予想していたとはいえ、目の前が真っ暗になった。

 すぐにセカンドオピニオンを求め、順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター(東京都江東区)の「もの忘れドック」へ。同ドックを担当するシニアメンタルクリニック日本橋人形町(同中央区)院長の井関栄三さんのもとで、頭部MRIや頭部PET-CT(陽電子放出断層撮影)などのほか、いくつかの認知機能検査を受けた。

 結果は、Bさんにとって意外なものだった。若年性認知症ではなく、うつ病だったからだ。井関さんのもとで心理療法と薬物療法を続け、1カ月ほどで症状は改善。それ以来、もやが晴れてスッキリし、前のような物忘れによるミスがなくなった。

 内科クリニックを営む医師Cさん(39)も、認知症恐怖にさいなまれた一人。電子カルテに打ち込む医学用語がすぐに出てこなくなる、目の前の患者の名前を覚えられなくなるといったことが気になりだし、診察業務が手に付かなくなった。「若年性認知症に間違いない」と、順天堂大のもの忘れドックを受けた。

 Cさんの病気もBさんと同様、認知症ではなくうつ病だった。

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