「この薬の特徴は血糖値が上昇したときだけ、膵臓にインスリン分泌を促すという点です。必要なときだけ作用するので、インスリンを分泌する膵臓の負担を軽くできます。低血糖も起こりにくい。さらに、血糖値を上げるホルモンであるグルカゴンの働きを抑える効果もあるので、いっそう血糖をコントロールしやすくなります」

 前出の三浦さんは運動もしっかりおこなったため、血糖値は6%台をキープ。DPP−4阻害薬の効果は思いのほか大きく、今ではインスリン注射は1日1回ですんでいる。

「注射の負担が減って、とにかく嬉しい。今後も油断せず、しっかり維持していきたい」

 DPP−4阻害薬は15年末の時点で、国内で推定450万人以上に処方されている。副作用として、まれに便秘や腸閉塞といった消化管症状が起こる。

 ただ、発売から6年が経過しても、重篤な副作用の報告は他の薬より少ない。服用は1日1回か2回。最近は1週間に1回のタイプも発売されている。

 同じDPP−4阻害薬でも、患者の希望に合わせた選択が可能になっている。綿田医師は言う。

「高齢者を含め、おおむねどの患者さんにも使いやすい薬といえるでしょう。インスリン分泌を促す薬では、まず『DPP−4阻害薬』を使い、効果が薄い人には少量のSU薬を加えるという使い方が一般的になってきました」

 糖尿病治療では血糖コントロールにとどまらず、さまざまな合併症を防ぐことも重要だ。綿田医師を中心とする順天堂大学大学院の研究グループは、大阪大学などと共同で、DPP−4阻害薬が動脈硬化に及ぼす影響を調査した。

 全国の341人の患者を、DPP−4阻害薬を使うグループと、他の糖尿病治療薬を使うグループに分けて2年間調べたところ、動脈硬化を抑える効果があることを発見した。15年12月にアメリカ糖尿病学会の雑誌のオンライン版で公表した。

 綿田医師は「糖尿病の早期の段階からDPP−4阻害薬を使うことで、動脈硬化にともなう心筋梗塞や脳卒中を予防できる可能性がある」と指摘する。

 副作用が少なく、発売後にインスリン注射の一部代替や動脈硬化抑制などの“想定外”の効果が明らかになったDPP−4阻害薬。ほかにもまだ効果があるのではと期待が高まっている。

週刊朝日 2016年3月4日号より