都甲医師はせん妄の診断についてこう話す。

「診断は丁寧な問診が基本となります。どのような症状がいつみられるのかとともに、症状がみられたときの本人の意識の状態を、家族など同伴者から聞き取ります。さらに、症状がみられる前に体調や病状の変化がなかったか、精神的ストレスがかかるような環境の変化がなかったか、市販薬を含めて新たな薬剤の服用を開始していないかなどを確認します」

 都甲医師が伊藤さんの薬の服用歴を確認したところ、伊藤さんは発症の前日に鼻づまりがひどく、市販の風邪薬を服用していたことがわかった。

「風邪による高熱でせん妄が起こることもあります。しかし伊藤さんの場合、発熱はなかったため、熱によるせん妄ではないと考えました。伊藤さんが服用していた市販の風邪薬を調べたところ、抗ヒスタミン剤が含まれており、さらに、薬を服用し始めたタイミングがせん妄の症状が出始めたタイミングと同じことから、抗ヒスタミン剤の影響によるせん妄と考えました」(同)

 都甲医師は伊藤さんに抗ヒスタミン剤を含む風邪薬の服用の中止を指示、抗ヒスタミン剤が含まれていない薬剤を処方した。また、夜間にせん妄の症状が起きた場合の頓服薬としてグラマリールを処方した。すると2、3日で、伊藤さんのせん妄は治まった。

 都甲医師はせん妄の原因となる薬をこう説明する。

「高齢者は特に抗コリン作用のある抗ヒスタミン系の薬、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬や抗不安薬、H2 ブロッカーといった胃薬、ステロイド薬を服用すると、せん妄がみられることがあります」

 高齢者では複数の疾患があり、それぞれ別の病院を受診し、多数の薬を飲んでいることが少なくない。

 医師から処方された薬の服用によって、認知症のような症状が起こることがある。これを「薬剤性認知障害」という。薬剤性認知障害は、アルツハイマー型認知症や血管性認知症といった認知機能の低下が不可逆性のものとは異なり、服用している薬剤を適切な量、処方に調整することで症状が治まる、可逆性の疾患といえる。

 複数の薬を服用しており、顔色が悪い、言葉のもつれ、歩き方がおぼつかない、転倒が増える、手や脚の微細な震えといった症状がみられたら薬剤による副作用(有害事象)を疑うという。薬剤性認知障害はこのような有害事象のひとつだ。

週刊朝日 2015年12月18日号より抜粋