もしかしたら薬が原因かも?
もしかしたら薬が原因かも?

 認知症の人がやがて800万人になる社会が来るとうたわれ、世の中の関心が高まる一方、高齢者の認知機能が一時的に下がっただけで「認知症」とみなされるケースも出てきている。「ぼーっとすることが増えた」「急に攻撃的になる」「気分の変動が激しい」。このように認知症と似た症状があっても、認知症ではない疾患には、「せん妄」や「薬剤性認知障害」があげられる。これらは認知症とは異なり、原因を取り除くことで症状が治まることが特徴だ。

 神奈川県在住の主婦、伊藤直子さん(仮名・75歳)は2015年4月、急につじつまの合わないことを話しだし会話が成立しなくなり、また、時折興奮したように大きな声を出すようになった。

 家族は、伊藤さんの認知症の発症を疑い、翌日、伊藤さんが落ち着いたタイミングで、横浜市のいなほクリニックを受診した。同クリニックは、県内に4カ所クリニックを展開しており、心療内科、精神科をおもに診療している。他院からの紹介も多く、同クリニック受診者の約3分の2を高齢の患者が占める。

 伊藤さんを診た、いなほクリニック副院長、都甲崇(とこうたかし)医師の問診によると、伊藤さんは、夜間に前述のような症状がみられるが、日中は穏やかな様子だったという。都甲医師は1日の中で症状が変動すること、急に症状が出現することから、伊藤さんの症状は認知症によるものではないと判断した。

「認知症は1日のうちで症状の変動がほぼ見られないことから、せん妄の可能性を疑いました」(都甲医師)

 せん妄とは病名ではなく、急に落ち着きがなくなる、自分のいる場所がわからなくなる、興奮して歩き回ったりするといった一時的な状態を指す。せん妄は認知症の周辺症状としても起こるが、単独でも発症する。せん妄による症状は認知症とは異なり、発症の原因やきっかけを取り除くことで症状は治まるのが特徴だ。

 せん妄の原因としては、高熱、肺炎、糖尿病といったからだの疾患や、特定の薬の服用があげられる。特に高齢者に多くみられ、痛みやかゆみなどの身体的なストレス、入院などの環境の変化や不安などの精神的ストレスがかかっている状態で生じやすい。

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