大筋合意した環太平洋経済連携協定(TPP)。作家の室井佑月氏は政府の“見事な半回転”に驚くばかりという。

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 安倍晋三首相は10月15日、JA全国大会であいさつし、環太平洋経済連携協定(TPP)の大筋合意について、

「重要品目について関税撤廃の例外を確保した。日本が交渉をリードし、国益にかなう最善の結果を得ることができた」

 と語った。このとき、会場にヤジが飛んだそうだ。

 TBSとテレ朝のニュースでは、そう報道されていた。が、ほかの局は、そのことについてはスルー。

 ヤジが飛んだということまで流して、報道の意味があるんだと思うけど。そこを取り上げなきゃ、ただの広報だ。

 TPPに関して、安倍自民ははじめは断固反対といっていた。それから、聖域はなんとしても絶対に守るになって、ちょっと気が弱く聖域は守りたいな、くらいになって……、見事に半回転し、この国として絶対になんとしてもTPPを進めなくてはならないになった。

 あたしたち国民は、政府の見事な半回転に驚くばかり。どうしてそういうことになったんだ。その具体的な説明もしてもらっていない。

 だいたい、他国との具体的な話し合いが一旦終わってから、この国で対策本部を設置するってどういうこと?

 今更、なにを話し合うの? 決まっちゃったことを、もとに戻すなんて、できるとも思えない。

 
 きっと、これから話し合われるのは、TPP対策の予算についてだろう。それって来年の参議院選挙の選挙対策のバラマキだ。農業や畜産をやっている方々は、そんな一時的な金に騙されないで欲しいと思う。

 いや、農業や畜産の方々だけじゃない、みな目先の金に騙されちゃいけない。

 この国の借金は1057兆円。減らないどころか、増えつづけている。

 そして、この国は少子高齢化。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、20年後の平成47年には3人に1人がお年寄りになる。たぶんこの国の運営は、かなりきつくなる。

 なのに、政府は今だけ良ければいいという、デタラメなことばかりしている。許していていいんだろうか。

 安倍政権になってから、世界大学ランキングで、日本の大学のランクは下がってしまった。世界の報道の自由度も下がった。TPPに加入すれば、自給率も下がるだろう。

 これらのことは、これから先の、国力につながることだと思う。

 世界に誇れる天才は、この国の資源、宝だ。が、この国が教育に使う金は、先進国の中でも下の下。

 世界的に食物の値段が上がったらどうする? この国は餓死者まで出している北朝鮮より、自給率が低いのだ。

 報道機関はそういう大切なことを、きちっと報道しない、できない。

 今日と違った明日がやってきて、はじめて、「!」を乱発した記事を書くんだろうか。そういう報道が国民にとって、どれほど意味があるんだろうか。

週刊朝日 2015年11月6日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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