鬼頭さんは、このソリティアを1回使っただけで、血栓を回収できた。血栓回収療法は発症から8時間以内に実施することになっているが、6時間以内だと血栓を回収できる確率が高い。鬼頭さんの場合は、発症から再開通まで4時間だった。t‐PA静注同様、血栓回収療法でも、より早い治療がより治療効果を高めることは明らかである。

 鬼頭さんはリハビリをして、3週間後に退院するころには、健康な人とほとんど同じ生活ができるまでに改善していた。

 血栓回収機器で、最初に健康保険適用になったのは10年の「メルシーリトリーバー」だ。これは血管を傷つけやすい、などの課題を抱えていた。

 次いで11年に健康保険適用となった「ペナンブラ」は、詰まった部位へカテーテルを送り込み、ポンプで血栓を吸引するものだ。血管を傷つけることは少ないが、血栓が硬かったり、詰まった部位が長かったりすると、吸引は難しい。

 そして14年にソリティアが健康保険適用になった。「ソリティアでの再開通率は80%を超え、手術時間も短縮されました。そのため、患者さんの機能回復の面で、改善しやすくなりました」(同)

 ソリティアに使用されている金属はやわらかいため血管を傷つけにくく、血栓の回収効率も高い。しかも、カテーテルを引き抜く前の、ステントを血栓に食い込ませた時点ですでに再開通が始まる。そのため、血流遮断の時間をより短縮化して回復効果を高める可能性がある。

 ステント型にはこのほか、「トレボ」という機器があり、合計4種類の血栓回収機器が健康保険適用になっている。

 1回で血栓を回収しきれなかった場合でも、3回までは血栓回収療法を実施することができる。現在は、まずソリティアを使い、それでも主に細い血管にやわらかい血栓が残った場合には、ペナンブラを使用するパターンが多い。

 また、佐藤医師は、

「動脈硬化性の脳血管の閉塞の場合、血栓を回収しても血流が十分に再開しない場合もあります。ソリティアといえど、場合によってはそれだけでは治療として成り立ちません」

 と述べ、バルーン(風船)で脳血管を広げるなどの、ほかの治療法との組み合わせの必要性も強調。さらに、血栓回収療法をより多くの病院で受けられるように、病院間の連携が重要であることも指摘している。

週刊朝日  2015年9月11日号より抜粋