不器用な親孝行が主題 人気文楽・義経千本桜の「すしやの段」とは? (2/2) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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不器用な親孝行が主題 人気文楽・義経千本桜の「すしやの段」とは?

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 鮓屋の主人・弥左衛門は、ある日、源氏の追っ手が維盛の首を狙って近づいていることを知り、万が一の時、身代わりに差し出せるよう、道で拾った他人の首を鮓桶に隠しておきました。

 そんな折、弥左衛門の息子である権太が店にやってきます。権太は親に金の無心ばかりする不良息子で、今は勘当同然。維盛の首を源氏に差し出せば褒美がもらえると知った権太は、鮓桶を持って維盛狩りへと出かけてしまいます。

 ついに、追っ手が店にやって来ると、弥左衛門は用意しておいた鮓桶の蓋を開けますが、あったはずの首はなく、啞然。そこへ権太が維盛の首を討ち取り、維盛の正室と息子を生け捕ったと戻ってきます。親の心、子知らずとはこのこと。怒りに震える弥左衛門は権太を刀で刺し、こんな言葉を吐き捨て悔しがります。

「もう腹が立って腹が立って、涙がこぼれて胸が裂くるわい」

 しかし、権太が維盛の首として差し出したのは、実は弥左衛門が拾ってきた首であり、引き渡した妻子は自らの妻子だったのです。権太の不器用な親孝行を、弥左衛門は勘違いしてしまったのです。結末はなんとも不条理ですが、親孝行のチャンスは誰にでも必ずある。そんなメッセージを感じ取ることができます。

 関西でよく耳にするフレーズ「すんません、ウチの子ごんたで」という言葉は、言うことを聞かない困った子どもを指し、このいがみの権太が語源となっています。さらに、鮓屋のことを弥助と呼ぶのもこの段が起源。十一月一日が全国すしの日と決められているのも平維盛が弥助に改名した日だから。これまで親に不義理ばかりしてきた方も内子町で文楽を観た後、十一月一日は親御さんを鮓屋に誘ってみてはいかがでしょうか?

豊竹咲甫大夫(とよたけ・さきほだゆう) 
1975年、大阪市生まれ。83年、豊竹咲大夫に入門。86年、「傾城阿波の鳴門」おつるで初舞台。今回の「義経千本桜」では、すしやの段の後を務める。

※「義経千本桜」は8月22・23日、愛媛・内子座。午前10時、午後2時開演。詳細は内子座文楽(www.town.uchiko.ehime.jp/site/bunraku)で。

(構成・嶋 浩一郎、福山嵩朗)

週刊朝日 2015年8月7日号


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