日本のワイナリーに異業種からの参入組が相次いでいる。「寒ぶり」で有名な、富山県の氷見市に2011年に誕生したセイズファームもその一つだ。親会社の「釣屋(つりや)魚問屋」は、江戸時代から続く鮮魚の仲卸。観光客数が伸び悩むこの土地に、新たな氷見ブランドを作ろうという挑戦がワイン造りへとつながった。

 当時の社長、故・釣誠二氏は自ら耕作放棄地を耕し、富山湾を見下ろす高台にブドウを植えた。魚の内臓やくずで堆肥を作った。魚と格闘する従業員たちも、朝の仕事を終えると畑を手伝った。醸造担当の田向俊さんも「魚漬け」から「ワイン漬け」の毎日に変わった一人だ。生産者の会合で100種近いワインをひたすら試飲し、貪欲に学ぶ田向さんの姿を筆者も記憶している。

 そして設立から5年目の今年。できたのは、果実のエキスのような、とろりとした「ソーヴィニヨン・ブラン」。富山湾から立山連峰に吹き上げる風は、果実に酸味も残し、後口はきりっと引き締まる。

(監修・文/鹿取みゆき)

週刊朝日 2015年7月24日号