2年前に金重さんを診察した大毛医師は当時の様子をこう振り返る。

「金重さんは、さまざまな薬を処方され、抗うつ剤の影響で常にトロンとした目をしていました。また、おならに気を取られているせいで、髪の毛はボサボサで身体全体が覇気のない印象でした」

 まず、おならの原因を突き止めるために、X線や大腸がんの検査、便通の状況を確認した。多角的に検査した結果、金重さんは内臓などに異常が見つからなかったため、生活環境のヒアリングを開始。話を聞いてみると、金重さんは肉は一切食べなかったり、ニンニクなどのにおいが強いものは食べなかったりと、食事制限を徹底したという。

「おならで悩んでいる人の多くは食事が原因だと考えています。においの原因になる食物もありますが、普通の食事をとっていれば、においに影響を与えることはありません。金重さんのような原因不明のおならに悩んでいる場合は誤った情報に惑わされて、不安が増強していることが多いです。そのため、一つずつ誤解や不安を解消することで改善に導きます」(大毛医師)

 大毛医師は、まず金重さんが処方されていた抗うつ剤をやめさせることから始めた。数週間後、薬が抜けたことで顔には覇気が戻り、思考も安定するようになった。その後、徐々に日常生活で気になる点を排除し、食事指導も開始。数カ月後には、以前のように、おならが気にならなくなったため、おならの回数やにおいは改善していったという。

 大毛医師は原因がわからないときこそ、粘り強く治療することが大切だと話す。

「金重さんの場合、本人が感じているほど周りには、においはしていません。過敏になるあまり、本人が思い込んでいるケースもあります。ただ、大切なのは出ているか、いないか、ではなく、ちゃんと症状を医師が理解してあげること。その上で一つひとつおならの悩みを解きほぐしていくことが大切と考えます」

週刊朝日 2015年7月17日号より抜粋