嵐山光三郎「芸人と俳人、おそるべし又吉直樹」 (2/2) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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嵐山光三郎「芸人と俳人、おそるべし又吉直樹」

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火花

又吉直樹著

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 省略された句の背景を推理し、切字の威力を実感するシーンがいい。切字は俳句の武器である。教える者と教わる者の信頼と緊張感が心地よく、ぐんぐん引きずりこまれていく。

 季語、修辞を学んで、第五章で、又吉氏は初めて定型句を作った。「廃道も花火ひらいて瞬(またた)けり」。又吉氏の初めての小説は『火花』で、こちらは「花火」。又吉氏がピースを結成する前のコンビ名は「線香花火」。

 まず夏の季語として花火を使う。又吉氏の頭にあったのは、花火大会の会場からちょっと離れたところにある廃道で、そこに花火がパーッと照らされる一瞬である。又吉氏の俳句の佇まいは、古風である。でありつつ整った句を嫌い、言葉が空を飛ぶ。

 しかし記念すべきこの句はイメージが先行して、又吉氏はいまひとつ納得できないでいる。それをどう突破していくか、は本書を読んで下さい。又吉氏は俳句と恋愛の共通点について語り、「好きな女の子だとええカッコしてしまってまったくしゃべられへん」。

 俳句の擬人法は「お笑い」にも似たところがある。堀本氏は村上春樹氏の小説にはかけ離れたものを「ような」でくっつける独特の直喩が多いと喝破し、又吉氏は、ウッチャンナンチャンやダウンタウンが流行させた擬人コントのネタを思い出す。

 この講義は二年間かけて雑誌「すばる」に連載されたため、回を追うにしたがって、又吉氏が定型句のコツを体得して、変幻自在に進化していく。

 おそるべし又吉直樹。

 第七章で三冊の句集から十句選句する。選句もまた感性を刺激する修業である。

 第八章で、堀本、又吉両氏主催の句会が興行された。三人が参加して計五人の句会となった。

 [1]出句、[2]清記、[3]選句、で静かに一時間がたち、[4]披講、[5]選評となる。一人が六句の互選で、公平な選となる。

 四人が選んだ四点句が二つあり、ひとつは、

 静寂は爆音である花吹雪

 が入った。又吉氏の句であった。句会で最高点をとったときは背骨に電流が走り、目玉から湯気が上り、部屋を駆けまわりたくなるほど興奮します。

 この句を選んだ四人が、それぞれの感想をいう。四人の選評を聞いて、句会が盛りあがり、又吉氏が自分で解説する。……夜中、一人で街を歩いていて、すっごく静かなところに入りこんだとき……何かやかましかったんです。花吹雪って、音はしないけれど、やかましい。

 よかったなあ。地獄だと怯えていた句会で天をとりました。もう一つの四点句は堀本氏の句で「パイプ椅子ばたばたたたまれておぼろ」。

 最後は鎌倉へ吟行する。又吉氏が「悪魔を見るように恐れていた吟行」は他では得られない喜びに満ちた思い出になった。世界を捉える視界の幅が広がった。

 又吉氏は十八歳で東京へ出てきて、貧乏生活をはじめて、夕方、あてもなく歩いて、自分が犯罪者のような感覚になったという。

 堀本氏も和歌山から上京して大学を卒業後、一年間フリーターをした。出版社に就職しても、東京の生活に疲れて故郷へ帰った。

 いまの又吉氏は、小説やエッセイの執筆に追われて芸人をつづける時間が減っている。出版界はこれだけの才能をほうっておかない。俳句の感性を得た又吉メロスよ走れ! ここ一年間が又吉直樹氏の最初の勝負どきである。

週刊朝日 2015年6月26日号


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