ブルーラグーンの約300メートル先にそびえるスバルツエンギ地熱発電所(約75メガワット)。周辺のアルミ工場などに電気を供給する(撮影/写真部・東川哲也)
ブルーラグーンの約300メートル先にそびえるスバルツエンギ地熱発電所(約75メガワット)。周辺のアルミ工場などに電気を供給する(撮影/写真部・東川哲也)

 英国から北西に800キロ以上離れた海に浮かぶアイスランドは、人口わずか約33万の小さな島国だ。北海道より少し大きいほどの国土のほとんどは、樹木のまばらな荒涼たる溶岩大地と氷河。その景色はまさに「最果ての地」そのものだ。

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 この国にはもう一つの顔がある。豊富な火山の熱を利用し、発電量の約4分の1が地熱という「地熱先進国」なのだ。河川にも恵まれ、水力と地熱で発電量のほぼ100%をまかなう。

 温泉の直接利用もさかんだ。南西部の町レイコルトにあるフリードヘーマル社の温室農園は、床や壁面に縦横に張り巡らされた温水パイプにより室内を26度に保っている。外は気温0度前後の雪景色だが、室内には授粉用のミツバチが飛び交い、真っ赤なトマトが実っていた。

“源泉”は町を見下ろす丘の上。地中700メートルほどの深さの井戸から、97度の温泉を採取する。農園に併設されたレストランの「マスター・シェフ」ヨン・シグフッソン氏が語る。

「ここには何百年も前から間欠泉があって、地元の人はプールに使っていました。住民が出資し合って井戸を掘り、温泉利用の施設を建てたのは1940年代。温室農園や各家庭の暖房用にお湯を引いています」

 同じ火山国の日本では、温泉こそ盛んなものの、地熱発電などエネルギーとしての利用はまだ発展途上だ。温泉地の景観を損ねるという反対論や、源泉の権利関係が複雑なことも普及が進まない背景だと指摘される。何がこの差を生んだのか。

「アイスランド人は昔から羊毛生地の洗濯や料理などに温泉を利用してきた歴史があり、地熱の産業利用に慣れている。この町があるのも温泉のおかげ。なかったら、人が住んでいなかったかも」(シグフッソン氏)

 生きるために編み出した知恵が、今、世界から注目されているのだ。

週刊朝日 2015年4月3日号より抜粋