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 チュニジアの首都チュニスで3月18日、武装集団が博物館を襲撃し、日本人3人を含む外国人旅行者ら21人が犠牲となった。日本人3人はスペイン、イタリアなど地中海を周遊するクルーズ船ツアーに参加し、チュニスに寄港していた。

 ローマ時代の遺跡などの世界遺産があるチュニジアは観光が主要産業。年約100団体の日本人旅行客を引き受けるという現地旅行代理店のゾハイル・ムバラク氏は、不安を口にした。

「さっそく直近のJTBのツアーがキャンセルになりました。しばらくは旅行客は減るでしょう。この事件をのぞけばチュニジアの治安は良かったのに……」

 テロの実行犯2人は治安部隊が射殺。チュニジア政府は21日までに、事件に関わったとみられる人物など20人以上を拘束した。

 19日には「イスラム国」(IS)が「犯行声明」をネットに公開。約3分間の音声で「不信心と不道徳の巣窟であるチュニジアで、ISの騎士が殉教した」「(事件は)雨の最初の一滴」と、今後さらなるテロを起こすことも示唆した。

 同政府は襲撃犯がイスラム過激派組織「アンサール・シャリア」と関係があると発表している。

 ISが台頭するシリアにチュニジアから入国した若者は世界最多の3千人とされ、「アンサール・シャリア」は昨年、ISへの支持を表明している。

 チュニジアは2011年の「アラブの春」で独裁政権が崩壊。昨秋に選挙が行われ、順調に民主化を進めていたかに見えたが、実は火種が広がっていたのだ。

 日本エネルギー経済研究所中東研究センターの保坂修司氏がこう語る。

「革命後、それまで抑圧されていたイスラム教徒が様々な組織を作りましたが、イスラム法による国家建設を理想とし、選挙や議会を許容しない『サラフィー主義者』は民主化プロセスから締め出された。経済の不調に不満を持つ若者たちがそこにつながり、テロが頻発していました。取り締まり強化の中でここ数カ月は多数の逮捕者が出ており、過激派側の焦りが背景にあったのかもしれません」

 ジャーナリストの川上泰徳氏は12年秋、チュニジア中部の町で「アンサール・シャリア」のメンバーと遭遇している。

「彼らは50人ほどで市場をパトロールしていた。訪れた町にある観光ホテルのバーは彼らに襲撃され、酒の瓶が全て割られていました。メンバーの若者は『自分たちは公共の秩序を守っているだけ。イスラム法の実施だ』と言っていました」(川上氏)

 中東で猛威を振るうISが、チュニジアの若者を取り込みつつあるのだ。

「過激派となった若者たちはリビアやISに渡り、そこで武器を手にして戦闘訓練を受ける。そうした若者が帰国したり、チュニジアからの移民の多い欧州に渡ったりすれば、さらなるテロの温床となってしまう」(前出の保坂氏)

 そしてイエメンの首都サヌアのモスク(イスラム教礼拝所)2カ所でも20日、相次いで自爆テロとみられる爆発があり、140人以上が死亡、多数の負傷者が出ている。ISは同日、犯行を認める声明を出した。

 ISが後藤健二さんら日本人2人を殺害した後、「日本人には指一本触れさせない」「罪を償わせる」と勇ましく語った安倍首相。だが、止まらぬ無差別テロの連鎖が世界中を不気味に覆い尽くそうとしている。

(本誌取材班)

週刊朝日 2015年4月3日号