さらなる金融融和策を決定した日銀。しかし、今年4月の金融融和が成功しなかったことを例に、ジャーナリストの田原総一朗氏は不安を募らせる。

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 日銀が、10月31日の金融政策決定会合で、追加の金融緩和策を決めた。長期国債の買い入れ規模を現在の年間約50兆円から80兆円に30兆円増額したのである。

 黒田東彦日銀総裁は記者会見で、消費低迷や最近の原油価格の下落を踏まえて、「物価上昇率がやや下がっており、将来の賃金や企業の価格設定が下がる恐れがある」と指摘し、「デフレマインドの転換が遅延するリスクがあり、金融緩和の拡大が適当だ」と説明している。

 日銀は2016年度までの経済見通しを発表しているが、14年度の成長見通しは7月時点の1.0%から0.5%に下方修正されており、14年度の物価見通しも1.3%から1.2%に、そして15年度も1.9%から1.7%に引き下げられている。

 そのために、「デフレマインドの転換が遅延する」と判断して、思い切った追加緩和となったのである。

 それにしても、今回の追加緩和について、日銀政策委員9人のうち、森本宜久氏(東京電力取締役)、石田浩二氏(三井住友ファイナンス&リース社長)、佐藤健裕氏(モルガン・スタンレーMUFG証券チーフエコノミスト)、木内登英氏(野村証券チーフエコノミスト)と、民間企業出身のエコノミストたち4人が反対。岩田規久男氏、中曽宏氏、宮尾龍蔵氏、白井さゆり氏という学者出身と日銀の4人が賛成して、黒田総裁が加わって、やっと5対4で追加策が決まっている。民間の金融機関出身のエコノミストらがいずれも反対しているのは、少なからず気になる。

 そもそも、日本の経済学者やエコノミストたちの多くは、経済成長の時代は終わって、もはや成長はしない、というのが常識のようになっていた。経済学者の水野和夫氏などは「資本主義は終わりだ」とまで言っている。

 安倍晋三首相のアベノミクスは、いわばそうした常識に対する挑発だったのである。日本の経済を成長させる、景気を良くしてみせる、と啖呵を切ったわけだ。

 そして昨年の4月に異次元の金融緩和を実施したのであった。

 そのために円は、1ドル=70円台後半という円高から100円内外にまで下がり、これに気を良くして、日経平均株価は8千円台から1万6千円台へと、約2倍に上昇した。

 そこで昨年の暮れから今年の春にかけては、安倍首相のチャレンジであるアベノミクスは成功しつつあると受け止められていた。

 だから、4月に消費税を3%増税しても、一時の冷え込みが夏以後は回復すると思われていたのだが、そうはならなかった。追加緩和に踏み切らざるを得なくなったのは、要するに「異次元緩和」が成功していないということではないか。同じことを繰り返して、果たして展望は開けるのか。しかも、円安が行き過ぎると、輸入する商品や部品の価格を押し上げるという副作用もある。

 さらに、問題は日本が世界でも飛びぬけた借金大国であることだ。国家の借金が1千兆円を超えて、GDPの230%にも達している。アメリカは106%、EUで最大の借金大国であるイタリアでも147%である。たとえば毎日新聞は、11月1日付朝刊の社説で、「中央銀行として踏み込むべきではない領域にまた深く、日銀は足を進めてしまった」と強調している。読売、産経の両紙は追加緩和に賛成しているが、朝日新聞も批判的である。

週刊朝日  2014年11月21日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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