出張先のフランスで受章決定の喜びを語る天野さん (c)朝日新聞社 @@写禁
出張先のフランスで受章決定の喜びを語る天野さん (c)朝日新聞社 @@写禁

 天野浩さん(54)は滞在先の仏南東部のグルノーブルで報道陣の取材に応じ、ユニークにこう語った。

「たぶん、父親とか夫としてはダメな人間で、家のことはほとんど任せっきり。家族は今、バラバラです」

 妻の香寿美さんは大学時代からロシア語を学び、現在はロシアで日本語を教えている。長女は京都大学大学院生、長男は東京の大学生。浜松市に住む母親(79)は、天野さんの暮らしぶりをこう話した。

「土曜も日曜も研究一本に打ち込んできました。子どもたちが大学を卒業して独立するまではお金がかかりますから、僕は頑張ると言ってましたね」

 母親は国家公務員だった。25年前に船舶業の父親を亡くした。2人兄弟の長男で、子どもの頃は「特に目立つようなはじけた子ではなく、物静かだった」(母親)という。

 地元では進学校の浜松西高校に進学。本人はノーベル賞を受賞できた理由の一つに「日本の高校、大学での教育が素晴らしかったから」と挙げるほど、印象が強かったようだ。天野さんに影響を与えた同校の数学教師で、3年間担任だった恩師の伊藤保さん(78)はこう話す。

「性格的には素直で真面目な生徒。本人も気が小さいとか言ってましたけど、おとなしい人でしたね。ノーベル賞はこれ以上、上の賞はないから、本当に素晴らしいこと。うれしいです」

 ほどなく天野さんにお祝いのメールが殺到した。

「私が『おめでとう』とメールを出したら、あの子からは『これから騒がしくなると思うけども、必死で頑張るよ。今まで育ててくれてありがとう』とメールが来ました」(母親)

 家族は離れていても強い絆で結ばれている。

週刊朝日 2014年10月24日号