ジャーナリストの田原総一朗は集団的自衛権の行使に関する閣議決定に対して、新聞4紙の見出し、社説を引き合いに出しながら、持論を展開する。

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 7月1日、安倍内閣は臨時閣議を開き、集団的自衛権の行使を認めるための閣議決定をした。歴代内 閣は、憲法9条の解釈で集団的自衛権の行使を禁じてきたのだが、安倍内閣は解釈改憲を敢行したのである。

 翌7月2日、朝日新聞は1面に大きく「9条崩す解釈改憲」との見出しを掲げ、社説のタイトルは「この暴挙を超えて」であった。安倍内閣の閣議決定を「暴挙」だととらえているのだ。

 毎日新聞は、やはり1面で大きく「9条解釈を変更 戦後安保の大転換」との見出しを掲げて、社説のタイトルは「歯止めは国民がかける」であった。安倍内閣の暴走を、何としても国民が止めなければならないというのである。

 それに対して読売新聞は、社説で大きく「抑止力向上へ意義深い『容認』」と打ち上げて、「長年の安全保障上の課題を克服したという意味で画期的である」と強調した。また、産経新聞は1面で「『積極的平和』へ大転換」と大見出しを掲げて、社説では「『助け合えぬ国』に決別を」とうたった。

 朝日、毎日が安倍内閣の閣議決定を危険きわまりない戦争への暴走だと怒っているのに対して、読売、産経は逆に抑止力が強まったと歓迎している。ただ、どの新聞も「解釈改憲」という点では一致している。

 ところが、である。

 
「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」という、長い表題の閣議決定なるものを何度読んでも、どこが解釈改憲なのか、さっぱりわからないのである。

 冒頭で、「我が国を取り巻く安全保障環境は根本的に変容し」「もはや、どの国も一国のみで平和を守ることはできない」と強調しているが、日本は独立したときから「一国のみ」で平和を守る自信はなく、だからこそ日米安保条約を結んでいるのである。

 そして「武器の使用」「武力の行使との一体化」など、憲法に抵触しそうな箇所になると、繰り返し、自衛隊法95条や憲法9条の下で許容されるなどの言葉を使用して、その範囲内であると力説している。

 解釈改憲とは、憲法に抵触するので解釈を変えるということなのだろうが、問題の「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し」という箇所でも、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される」という条件がついている。そして安倍首相自身、「現行の憲法解釈の基本的考え方は何ら変わることはない」と述べているのだ。

 これでは国民のほとんどは、いったい何が閣議決定されたのかよくわからない。そして、わかりにくいために、逆に政府にごまかされているのではないかと強く疑いたくなるのではないか。

 このような内容になったのは、公明党が、婦人部を中心に集団的自衛権の行使に強く反対している創価学会の人々に、「実は憲法に抵触する部分はない、憲法の範囲内だ」と説明できるかたちにしようとしたためではないのか。そのように疑いたくなる曖昧模糊とした閣議決定である。

 そのため、朝日、毎日の憤りと、読売、産経の歓迎ぶりも、いまひとつリアリティーがない。そもそも4紙とも、この、いかようにもとれる曖昧模糊とした閣議決定を批判すべきではないのか。

週刊朝日  2014年7月18日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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