ドラマ評論家の成馬零一氏は、最近増えている労働環境にまつわるドラマはブラック企業の問題点を視聴者に投げかけているとこう語る。

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 劣悪な労働環境で長時間の仕事を強いて、若者を使い捨てにする「ブラック企業」のニュースが毎日のように報じられています。テレビドラマでも、『ダンダリン 労働基準監督官』のように労働基準法を題材にしたものや、労働環境が原因で起こる犯罪を描く刑事モノが増えています。

 6月中旬で終了した『ブラック・プレジデント』もブラック企業を扱った作品です。しかし、その社長を悪役ではなく主人公とした社会風刺劇なのが本作のユニークなところです。

 主人公の三田村幸雄(沢村一樹)は、アパレル大手のトレスフィールズインターナショナルを一代で築きあげたやり手の社長。しかし、トレスフィールズは、三田村の気まぐれで理不尽な労働を強いるブラック企業だという悪評がはびこっていた。ネット上での三田村の評判は最悪で、暴言をまとめた三田村語録まで出回っている始末。そんな三田村が、社会人入試枠を利用して大学の経営学部に入学するところからドラマは始まります。

 
 三田村は、校内で撮影していた映画に興味を持ち、映画サークルに入り浸るようになります。しかし、ワンマン社長として酸いも甘いも噛み分けてきた三田村と、ゆとり世代の大学生たちとでは価値観が合わず、ことあるごとに、ぶつかるようになっていきます。

 脚本は尾崎将也。近作では、朝ドラの『梅ちゃん先生』が有名ですが、代表作は何と言っても、『アットホーム・ダッド』『結婚できない男』といった、本作と同じフジテレビ系火曜午後10時に放送された阿部寛主演のオフビート・コメディドラマです。

 2作とも中年男性が自分を見つめ直すことがテーマとなっており、仕事一筋で生きてきた男が、今までないがしろにしてきた家族や地域社会の中で、どうやって居場所を見つけていくのか、がテーマでした。

 本作におけるブラック企業の問題も、根底にあるのは中年男性の問題です。会社組織で生きてきたオジサン達の「常識」を、女性や若者に押し付けることから起こる衝突であることをさりげなく見せています。

 
 三田村を演じる沢村一樹は、『DOCTORS~最強の名医~』での、ヘラヘラと笑いながら腹黒い計画を平気で実行する相良医師がハマリ役でした。今回も社長を演じる三田村の笑顔の裏にある腹黒さは、相良のイメージを引き継いでおり、こちらもハマリ役となっています。

 また、三田村社長を中心とした人間関係も魅力的で、大学のサークルや教授との関係はもちろん、会社の部下との人間関係、そして家に帰れば、母親と妹が待っていて頭が上がらないといった様子が多角的に描かれます。黒木メイサ演じる大学講師や国仲涼子が演じる秘書、壇蜜が演じる女医など、彼を取り巻く女性たちの描き方もバリエーション豊かです。中でも三田村に恋心を抱く女子大生を演じた門脇麦のぽわ~んとした存在感は女優として魅力的で、今後のブレイクを予感させます。

 最終話はあっさりしたもので、やや肩透かしの印象でしたが、元々エッセイみたいな話だったので、これでいいのでしょう。逆に言うと、三田村社長とこの世界観を使って描けることはまだまだたくさんあるかと思うので、是非とも続編を期待したいものです。

週刊朝日  2014年7月11日号