ドラマ評論家の成馬零一氏は、近ごろのドラマは民放地上波よりも衛星放送の方が制作力があると理由をこう語る。

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 今、NHK BSプレミアムで放送されている野島伸司・脚本の『プラトニック』は、中山美穂と堂本剛が主演の純愛ドラマです。

 心臓疾患のある娘の介護に追われ、精神的に追い詰められていたシングルマザーの望月沙良(中山美穂)が、自殺サイトの掲示板に「どうせ死ぬなら、娘に心臓をください」と書き込むところから、物語が始まります。当然ながら、ほとんどの反応は罵詈雑言。しかし一件だけ、「僕のハートを差し上げます」とコメントされます。

 これを書き込んだ謎の青年(堂本剛)は脳腫瘍で余命わずか。死期が迫る青年の善意を信じた沙良は、娘の心臓移植のドナーとなってもらうため、青年と偽装結婚をして同居を始めるというのが第2話までのあらすじです。

 野島は『101回目のプロポーズ』『高校教師』など、1990年代に数々のヒット作を送り出した人気脚本家。ここ数年は停滞気味でしたが、昨年放送の、死んだ父親の魂が息子の体に入り込んで楽しい学園生活を送る青春ドラマ『49』以降は、児童養護施設の描き方が物議を醸した『明日、ママがいない』で脚本監修したほか、今回この『プラトニック』など、精力的に作品を発表し、全盛期の勢いを取り戻しつつあります。

 
 ストーリーもさることながら、登場人物も野島作品らしく一癖も二癖もあり、魅力的です。特に、ここ数年はコメディドラマが多かった堂本剛演じる青年の、天使のような“浮遊感”のある演技が、実に素晴らしく、目が離せません。

 これまで民放ドラマの“エース”として知られた野島は、今回初めてNHKで執筆し、それがBSで放送されていることが話題になっていますが、実はWOWOWを含む、有料の衛星放送で人気脚本家が執筆するケースは近年、増えているのです。

 例えばWOWOWでは、岡田惠和が白石一文の小説をドラマ化した『私という運命について』を執筆。

 坂元裕二は、アダルトビデオ制作会社に乗っ取られた田舎町での騒動を描いた『モザイクジャパン』(R15+指定相当)という、地上波では放送の難しい題材に挑戦しています。

 今後は、『すいか』や『野ブタ。をプロデュース』などの作品で高い評価を受けている木皿泉が、自身の小説をドラマ化した『昨夜のカレー 明日のパン』が、BSプレミアムで10月に放送される予定です。

 
 日本は長らく民放地上波の影響力が圧倒的に強かったのですが、最近になってNHKや有料のBSなどのドラマ制作力が向上しています。逆に民放は常に「視聴率」という評価基準にさらされ、表現規制も強まっており、作り手の環境は年々厳しくなっています。なので、彼らが有料のBSやネットの動画配信サイトなどの“新天地”に移っていく流れは必然と言えます。もしかしたら『プラトニック』の登場は、テレビドラマの主戦場がBSになっていく兆候かもしれません。

 最後にもう一つ、『プラトニック』が面白いのは、演出を担うディレクターがNHK職員ではなく、大塚恭司という日本テレビに籍を置く人間だということ。大塚は『49』でチーフ演出を担当しました。

 今後、他局ディレクターがBSやWOWOWで撮るケースが増えていくのか、とても気になるところです。

週刊朝日  2014年6月27日号