今季の国内男子メジャー第1戦を制した手嶋多一選手。ジュニア時代から彼を知るプロゴルファーの丸山茂樹氏は、優勝の理由をこう分析する。

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 いやぁ、45歳でもやれるんですね。

 今季の国内男子メジャー第1戦・日本プロゴルフ選手権日清カップヌードル杯(6月5日~8日、兵庫・ゴールデンバレーGC)は、僕より1歳上の手嶋多一(てしまたいち)さんが制しました。日本ツアーの優勝は7年ぶり、メジャーとなると13年ぶりです。アッパレ、アッパレ!

 ジュニア時代からの仲間なので、年上だけど「多一君」なんて呼ばせてもらってきたんです。

 最終日はテレビ中継のラウンドリポーターとして18ホール一緒に回りましたけど、多一君のプレーは安心して見ていられましたね。14番のバーディーで小田孔明、李京勲(韓国)に追いつくと、後はなんとか逃げ切りました。

 このゴルフ場は、コースの難易度を数値化した「コースレート」が77.4と国内最高なんです。

 
 こういうゴルフ場では、コースマネジメント力がない人は絶対にダメです。あとはタフな状況の中で、自分の設計図通りに打っていけるメンタルの強さですよね。多一君にはマネジメント力があるうえ、今週は抜群に調子がよかった。4日間、ダブルボギーを一つもたたかなかったんですから。

 マネジメント力を高めるにはどうしたらいいか。もちろん経験を積むことが必要なんですけど、いくら経験を積んでも、「感じ方」が正しくなければ身につきません。

 何かが起こったとき、「そんなの関係ねえよ」ってやってるだけではうまくいかないし、「怖くねえよ」とイケイケでもダメだと思うんですね。しっかり原因を考えて、いい経験として頭に入れていく。これを積み重ねていくと、攻めと守りを交互に使うゴルフができるようになる可能性がある。そうやって無理をしない、無理をさせない自分をつくっていくんです。

 右サイドに池があり、プレッシャーがかかる18番パー5。最終日の多一君にはうならされましたねえ。ティーショットをフェアウエーど真ん中に打ってるんです。第2打を3番ウッドで打てばピンそばまで持っていけるのに、アイアンできっちりレイアップしてバーディーチャンスをつくった(結果はパー)。自分を大きく見せることをしないんです。これが多一君の素晴らしいところですよね。

 
 ジュニア時代から近くで見てきましたけど、多一君はひとことで言って、いい人ですよ。サラリーマンみたいな風貌(ふうぼう)でね、いつだって謙虚なんです。

 一方で話が上手で、ほんとに面白い。みなさんがテレビを見ている分には伝わりにくいと思うんですけどね。これは多一君の歩んできた道と関係があるんでしょうね。

 地元・福岡の高校を卒業して、米国へ留学。東テネシー州立大学を卒業してるんです。すごくチャレンジ精神があって、僕らの世代では最先端をいってましたよね。そういう中で、コミュニケーション力も磨かれていったんじゃないでしょうか。欧州ツアーに挑戦した時期もありましたし。

 今回の優勝で5年間のシード権が手に入りました。50歳まで余裕を持ってプレーして、シニアツアーに入っていけますね。

 多一君、改めておめでとう。僕もあきらめないで頑張りますよ!

週刊朝日  2014年6月27日号

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丸山茂樹

丸山茂樹

丸山茂樹(まるやま・しげき)/1969年9月12日、千葉県市川市生まれ。日本ツアー通算10賞。2000年から米ツアーに本格参戦し、3勝。02年に伊澤利光プロとのコンビでEMCゴルフワールドカップを制した。リオ五輪に続き東京五輪でもゴルフ日本代表監督を務めた。セガサミーホールディングス所属。

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