(撮影/写真部・堀内慶太郎)
(撮影/写真部・堀内慶太郎)

 異様としか言いようがない光景だった。

 6月12日、黒のスーツを身にまとった10人の男女が厚生労働省内の記者会見室に結集し、その中央に座る男性が開口一番、言った。

「昨夜、私は東京女子医大の全理事、評議員、監事、顧問に退陣要求を送らせていただきました」

 声の主は笠貫宏東京女子医大学長。会見の冒頭、最高意思決定機関である理事会に対して“宣戦布告”した。

 同大は、大きく二つの組織に分けられる。医療機関としての「病院」と、学長をトップとする教育部門の「大学」だ。その両翼を束ね、経営を統括するのが理事会。現在の理事長は、創業者一族の吉岡俊正氏が務めている。

 会見で、笠貫学長は全理事ら約30人の退陣要求の理由を「患者、学生、教職員の命を軽視している」「(大学幹部との)信頼関係が作られていない」などと次々に挙げ、経営の怠慢を糾弾した。すぐ横には副学長のほか、医学部長や看護部長らが勢揃い。いずれも笠貫学長を支持する教授たちで、学長の言葉に「うん、うん」と繰り返しうなずく人も。会見後、メンバーの一人は「大学側の幹部全員が揃った」と結束の固さを語った。

 実は、この日に先立つ5日、医学部長らが独自に会見して、麻酔薬「プロポフォール」の不正使用を正式に認めたり、「理事会に事故調査結果の速やかな公表を求めたが、なされていない」と批判したりしていた。

 つまり12日の会見は、創立114年の歴史を誇る名門医大で、創立者一族に弓を引く“クーデター”が起きたことを世に知らしめるために開かれたのだ。

 騒動の発端の今年2月に起きた医療死亡事故について改めて確認したい。

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