総務省によると、119番通報から病院に収容されるまでの全国平均時間は38.7分(2012年)。また、12年に重症患者の搬送先が11回以上決まらなかったのは東京都で173回、埼玉県で167回など、「たらい回し」が問題になっている。iPadなどITを利用した“見える化”により改善されてきた自治体も多いが、それでも抱える問題は少なくないようだ。

 一つは、病名が簡単に確定できないケース。例えば複数の病気を患っている人たちだ。脳の病気で転倒して骨折すると、複数の専門医が必要だ。当然1人見つけるよりも難しく、「受け入れ不可」になりやすい。

 県内の全救急病院の情報が画面にほぼリアルタイムで映し出される「99さがネット」導入から3年になる佐賀県でも、実際にこうしたケースで「受け入れ不可」が頻繁に起きていることがわかってきている。これは「見える化」によって図らずも浮き彫りになった救急医療の問題点で、今後データが蓄積されれば、どんな診療科の組み合わせが「受け入れ不可」となりやすいかも明らかになるはずだ。

 これ以上に、搬送先探しが極めて厳しいのが「原因がわからない」とされる患者たちだ。久喜市を中心とする埼玉東部消防組合の日下部稔隊長によると、36回「たらい回し」された久喜市の75歳の男性も、ここに該当したという。男性は119番通報時は呼吸困難を訴えながら、その後、救急車内で意識不明になり、隊員は「どの専門医に頼めばいいか」がわからなくなった。このため、多くの施設が「専門外」「処置困難」との理由で断った。

 本来、こうした患者を診るのは「救急専門医」だ。いわば全身状態を診断する専門家だが、国内では約3800人。整形外科専門医の1万7千人以上、消化器病専門医の1万8千人以上に比べると、圧倒的に少ない。

 埼玉県には、たった一人の医師が立ち上げた救急施設「川越救急クリニック」があり、多くの患者が集まっていることがメディアに注目されている。院長で「救命救急センターで研修を積んだ救急専門医」として知られる上原淳医師は現状を嘆く。

「埼玉県で働く救急専門医は110人。うち約60人は重症専門で診る大学病院などの三次施設にいて、183カ所もある入院可能な自治体病院レベルの二次施設にはわずか28人しかいない。こうした偏在こそが大きな問題なんです」

 上原医師は、たらい回しで報道される患者たちについて、「うちに要請されたら間違いなく受け入れる」と断言する。救急専門医とつながれれば救えるかもしれないというのだ。

週刊朝日  2014年6月20日号より抜粋