来年のNHK大河ドラマ「花燃ゆ」の主人公となる吉田松陰の妹・文(ふみ)。その子孫であり、杉家10代目当主の杉治彦(はるひこ・77)氏はこれまで「親族会でも話に出なかった」と明かした。

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 来年の大河ドラマで、吉田松陰の妹である文(のちに美和子と改名)が主人公になると聞いて、とっても驚きました。末裔としては非常にうれしいですね。

 文は、杉家の四女にあたり、杉家の次男だった松陰の妹になります。松陰とは10歳以上、年が離れています。そののち、文は15歳で長州の久坂玄瑞(くさかげんずい)に嫁ぎますが、それには松陰の強いすすめがあったようです。久坂は松陰の門下生で、松陰が「防長年少第一流の人物」と称賛したとされる逸材。そんな一番弟子に嫁がせるということは、松陰は文のことをとても可愛がっていたのでしょうね。

 ただ、夫の久坂は、とても優秀だっただけに、江戸へ遊学したり、長州尊攘派として活躍したりと、各地を飛び回っていた。文と一緒に過ごした時間というのは、とても少ないようですが、その間、何十通も手紙をやり取りしたんです。禁門の変で久坂が自刃するまで続いたとか。

 手紙のやり取りといえば、私自身も、松陰の遺伝子なのでしょうか、若いころから海外に行くことにとても興味がありました。だから高校を卒業後、東京商船大(現・東京海洋大)に入り、日本郵船に入社しました。船乗りに憧れたんですね。5年くらい勤め、全部で47カ国くらい行ったんですよ。その間、日本で留守番していた妻にはしょっちゅう手紙を書きました。妻からも返事が来た。数をあわせると段ボール1個分くらいになります。そういう意味では、久坂と文夫妻のようですね。

 わが家には、文のものがいくつか残っています。その一つが、文が母の滝(たき)に送った50銭札。「美和子」と書いてあるので、楫取(かとり)家に嫁いでからのものだと思います。文は、母親の生活を心配して送ったんでしょうね。当時、杉家はとても貧しかったようなので。母親も、その心遣いが心底うれしかったのでしょう、使わずにずっと取っておいたんです。私だったら、すぐ使ってしまうかもしれませんが(笑)。これは代々、仏壇の中に保管してあります。

 文の母親の代から使っていたお椀や食器類もあります。お客様をもてなすときのものだったようですが、文も使っていたと思います。1回だけ、「当時を再現しよう」と、杉家や吉田家ら親族で集まったときに、これで会食をしたんですよ。

 遺品こそ残っているものの、実は文についてはこれまで、「家系図に名前があったな」くらいの認識だったんです。親族会でも、話に出たことがないなぁ。でも、大河ドラマが始まったら、今度は文の話題で持ち切りになるかもしれませんね。

週刊朝日  2014年6月6日号