舌がピリピリする、辛いものや酸っぱいものを食べるとしみる――こんな舌の痛みを訴える人が、近年増えているという。

「舌がピリピリしたり、刺激物がしみたりする人は、ドライマウスの危険性があります」

 こう言うのは鶴見大学歯学部教授・斎藤一郎氏だ。鶴見大学歯学部附属病院では、2002年から「ドライマウス外来」を開設。累計初診者数は約5200人。平均で年間500人超ということから、相当数の人が口の乾きに悩まされていることがわかる。

 ドライマウスとは、唾液の分泌量が減少して口の中が乾燥し、会話や食事などに支障が出る病気だ。原因は、加齢やストレス、薬の副作用などさまざまである。その患者の多くが、舌の痛みを訴えるのだと斎藤氏は言う。

「舌が痛いと言って来られる患者さんを調べると、6、7割の人からカンジダ菌が見つかります。カンジダ菌は誰の口の中にもいる常在菌ですが、あるきっかけで異常に増えると、舌にピリピリとした痛みをもたらしたり、口角が切れたりする『カンジダ症』を引き起こすのです」

 カンジダ病の原因のひとつは、免疫力の低下だ。風邪をひいたりストレスを抱えたりすると、口腔内のカンジダ菌が増殖し、痛みがもたらされることがある。しかし、通常この症状は一過性のもので、免疫力の回復とともに自然と治る。問題は、ドライマウスに起因するカンジダ病だ。

「唾液には抗菌作用や自浄作用があり、口腔内の細菌のバランスを保つ役割を果たしています。口の中に傷ができたとしても、手足の傷と違って、すぐに治るでしょう? あれは唾液のおかげなんです。しかし、唾液が不足すると、カンジダ菌をはじめとする細菌類の増殖が抑えられなくなるんです」(斎藤氏)

 細菌類が特に増えるのは、舌の上だ。舌の表面には「舌乳頭」という絨毯の目のような突起物がびっしりと生えていて、食べカスがたまりやすい。また、適温なので、細菌がすみつきやすい。これがドライマウスになると舌が痛くなる理由だ。

 一過性のカンジダ病と違い、ドライマウスの場合、治るまでずっと痛みが続く。口の中の細菌が増えることにより、口臭にも悩まされる。それだけではない。「誤嚥性(ごえんせい)肺炎」になって死に至る恐れすらあるのだ。

週刊朝日  2013年12月27日号