保坂展人(ほさか・のぶと)1955年生まれ。ジャーナリストとして活動後、96年から衆議院議員を3期務める。2011年4月、世田谷区長選に立候補し、初当選。1期目(撮影/家老芳美)
保坂展人(ほさか・のぶと)
1955年生まれ。ジャーナリストとして活動後、96年から衆議院議員を3期務める。2011年4月、世田谷区長選に立候補し、初当選。1期目(撮影/家老芳美)

 保育所の「待機児童ゼロ」を達成した横浜市に対して、批判にさらされているのが「待機児童数ワーストワン」の東京都世田谷区だ。今年4月時点の待機児童数は884人。横浜市は株式会社やNPO法人を活用することで待機児童を大幅に減らしたが、世田谷区は企業立の認可保育園がゼロ。民間企業の参入が遅れているのはなぜか。世田谷区長の保坂展人氏(57)にインタビューを行った。

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 内閣府の規制改革会議などで、世田谷区の認可保育園は社会福祉法人が中心で、民間企業を排除しているのではないかという意見がありました。しかし、世田谷区が一貫してこだわっているのは「保育の質」の確保です。量的拡大のためには「質」がついてこなくてもいい、という立場は取りません。保育の質が保たれるのであれば、法人形態によって決めつけようとは考えていません。実際に、今月発表した「提案型による認可保育園整備の再公募」では、事業者が土地を見つけてきて提案するスキームを作り、そこには株式会社やNPO法人も応募できるように枠を広げました。保育をするのに、優良な民間企業もあれば、不適格な社会福祉法人だってあるでしょう。それは当然のことです。

 認可保育園を造る際、社会福祉法人や学校法人は手厚い支援が受けられます。国の「安心こども基金」から50%、東京都から25%、区から12.5%、実に87.5%が公費でカバーできます。世田谷区で100人規模の保育所を造るには、約2億4千万円かかる。社会福祉法人であれば、その12.5%、約3千万円の負担で住むのです。今までの規定では、株式会社はこの支援をまったく受けられませんでした。87.5%の支援があるのとゼロとでは差があります。株式会社の負担が多ければ、保育士の質や労働環境にも影響しかねない、つまり、保育の質の低下にもつながりかねないのです。厚労省が「株式会社も参入させるべきだ」と言うのなら、「安心こども基金」の対象に株式会社を含めるように見直すべきだと思います。その点を、厚労省の担当局長に聞いたところ「株式会社などには、建物の公費負担分の減価償却費にあたる金額を一定期間、国が負担する方針だ」との回答がありました。この回答があったことは大きな前進でした。

 もうひとつ、株式会社には倒産のリスクもあります。もし倒産すれば、法律上は区長である私が責任を負います。その責務を考えれば、財務上もきちんと審査しなければなりません。この審査ができないのなら、株式会社の参入はリスクが大きいと考えていましたが、これも厚労省の局長が「これまで以上にきちんと審査してほしい。市町村の権限を拡大、強化して、事業者への立ち入りや帳簿の提出もできるようにする」と明言しました。

 施設整備費補助の拡充と世田谷区独自の調査。この二つが担保されたので、株式会社などへも公募枠を広げられました。ただ、これらは今年の5月末に厚労省へ直接確認して初めてわかったことなのです。

 横浜市が待機児童解消に懸命に取り組まれたことには敬意を持っています。地域別に保育需要をとらえる「保育コンシェルジュ」や私立幼稚園の預かり保育などの制度は、世田谷区でも参考にしていこうと思っています。しかし、横浜市とは環境が大きく違うことも事実です。たとえば、就学前児童(0~5歳児)の増え方です。世田谷区は2012年に5400人の人口増加がありましたが、そのうち949人が就学前児童です。就学前児童は09年から毎年約千人ずつ増加している状況で、これは、子連れで世田谷区に転入してくるご家庭が多いことを示しています。横浜市では就学前児童数は減少しているはずなので、一律には比べられません。

週刊朝日  2013年7月19日号